表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/82

69. 化物侍女は参考にならない

 ヨルの先導の元森を歩く事暫く。下層に降りる階段へとたどり着いたティアラ達は、そのまま警戒を緩める事無く下へと下った。

 そして何事も無く無事一つ下に降りると【森のダンジョン】という名の通り一階層と同じ様に森が広がっていた。だが実は、全く同じという訳でもない。


「森の構造は勿論異なるけれど…出てくる魔物も違うのよね?」

「はい。ここからはマジックリーフと森兎が出現します」

「森兎……?」

「兎と名は付いておりますが、厳密には動物の様な姿ではありません」


 森兎。【森のダンジョン】第二階層にて出現する魔物であり、その特徴はなんと言ってもその構造。

 遠目から見れば姿形は兎にしか見えないが、近付けばその認識が誤っている事を自覚する事となる。


「簡単に言い表すのならば…蔓で編まれた兎の人形、でしょうか」

「あぁー……成程。それで大体想像がついたわ」


 見た目が兎なだけの、意志を持った蔓の塊。それが森兎という魔物だ。

 何故態々兎の姿をとっているのかは不明だが、低級の割りにはすばしっこく倒しにくい魔物である。


「これも身体が修復されるの?」

「修復というよりも失った部分を他の蔓で補いますので、だんだんと蔓の密度が下がっていきます。その後露出した中央部にある魔石を破壊するのが一般的な攻略法ですね」

「どちらにしろ削らないといけないのね…」


 森兎は身体の蔓を魔石から供給される魔力によって硬化させているので、生半可な刃物では切断する事は難しい。なので別名近接殺しと呼ばれている。……但し、ヨルには関係が無い話だ。


「おや。噂をすれば早速出てきましたね」


 木の影から現れた森兎を視認して、ヨルがナイフを構える。


「如何なさいますか?」

「そうね…まずは戦う森兎の動きを見たいわ。見せてくれる?」

「かしこまりました」


 我が主が動きを見たいと言うのであれば一太刀で終わらせるのは宜しくないだろうと考え、まずは森兎を動きを伺う。


「っ!」


 兎の形をした魔物ではあるが声帯を持たない為に、前触れもなくヨルへと蔓を伸ばしてくる。マジックリーフとは異なりその蔓は槍としての役割を果たせる程硬く、下手をすれば身体を貫かれる。


「ふっ!」


 短く息を吐いて身体を落とし、自ら向かってくる蔓に向かって駆け出す。そこから身体を回転させて蔓を切り払い、更に加速。


「っ!?」


 その時僅かに感じ取った振動からヨルが横に跳べば、地面から鋭い切っ先を持った蔓が飛び出して来た。


「これは…」


 森兎の基本的な攻撃手段は先程のような蔓を伸ばしてくる程度だ。地面を潜って奇襲するなどの小細工をする程、森兎の知能は高くない。

 であれば───


「───生き残った個体ですか」


 魔物もまた生き物であり、長く生き残ったものほど知恵を付け、力を蓄える。故に余程の事が無い限り、手負いの魔物は逃がしてはならないとされる。

 憎しみや復讐心、怒り。そういった感情は、何よりもその存在を狂わせるのだから。


「ですが…甘いですね」


 森兎の蔓は全て身体から伸びるもの。そしてそれを動かすのならば、必ず()()()()いなくてはならない。

 であるからこそ、地面に蔓を伸ばすという行為は錨を打つ行為に等しい。


 ナイフを二本投擲しつつ更にヨルが近付く。森兎は一本のナイフを弾くが、もう一本はそのまま胴体へと吸い込まれるようにして突き刺さった。

 明らかに避けられる距離であったのに、回避行動を取らない。それはヨルの考えを裏付ける決定的な証拠に他ならなかった。


「そろそろ眠ってください」


 必死の蔓の妨害などヨルにとっては無いに等しく、気が付けば森兎の眼前へと辿り着いていた。そしてそのまま首にあたる部分にナイフを通して、頭部…の形をした塊を切り飛ばす。するとその奥にキラリと光る魔石が視認できた。

 だがそれでは生物としての機能を持たない森兎は止まらない。取り付いた敵を引き剥がそうと、頭部を失った首元から鋭い蔓が襲い掛かる。一瞬の出来事ではあれどその一切迷いが無い行動は明らかに手馴れており、何度かそうして襲い掛かった事があると分かる。

 それに対してヨルは追撃すること無く、素直に後ろに下がってそれを躱した。


「お終いです」


 だがもうこれ以上戦闘を長引かせる理由も無い。下がる瞬間に投擲されたナイフが襲い掛かる蔓の隙間を縫って、真っ直ぐに剥き出しとなった魔石へと突き立てられる。

 一拍の間を置いて魔石が音を立てて砕け散ると、兎の形を成していた蔓はその維持する力を失いだらりと地面に落ちた。


「討伐完了致しました」

「…うん。ありがと」


 何事も無かった様子で告げるヨルに、ティアラは困惑したような笑みを浮かべて労った。


「…フェリシア。さっきみたいにナイフ当てれる?」


 その言葉にフェリシアが勢い良く首を横に振って答える。それを見てティアラもまぁ当然かと言うように苦笑を浮かべた。


「参考にしたいとは思ったけれど…」

「…まぁ、森兎の動きは分かったし」

「あ、その事なのですが…先程の個体はどうやら長く生き残った個体のようでして、通常の森兎の動きは少し異なるかと思います」

「……じゃあここまでの時間は何だったの?」



初心者向けであるが故に生物的な魔物は少ないのです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ