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67. 化物侍女は教える

 ヨルが音のした方へと身体を向けて、袖から一本の黒いナイフを取り出して構える。


「マジックリーフは歩行する植物型の魔物です」


 ヨルの説明と共にガサリと木の葉が揺れ、何かが地面へと落下する。ティアラ達がソレへと視線を向けるのと、ソレが立ち上がるのは同時だった。


 二本の足…のようなもので立ち上がる、ヒョロリとした線の細い緑色の身体。大きさとしてはティアラ達の腰ほどで、一見すれば二足歩行の生き物のようだが、顔に当たる部分には何の変哲もない木の葉が一枚張り付いているだけだ。それは生き物と言うよりも、正に“植物”と呼べる姿だった。


「これがマジックリーフ…?」

「はい。声帯を持たないので鳴き声などはありませんが、だからこそ前触れなく突然身体から蔦を伸ばして襲ってきます」


「このように」とヨルが襲ってきた蔦を片手で鷲掴み、ティアラ達へと見せるように掲げる。元々低級の魔物である為、その攻撃の速度は遅く威力も弱い。だからこそ簡単にヨルが掴む事が出来たのだが……傍から見れば間違い無く魔物を弄んでいる様にしか見えなかった。


「…もう驚かないと思っていたのだけれどね」

「……それ、安全なのよ、ね?」

「はい。ですが種類によっては蔦に毒が含まれている場合がありますので、基本は当たらないようにする事をお勧め致します」

「……ヨル。速やかに処理なさい」

「かしこまりました」


 主の命令に従い、ヨルがナイフで蔦を断ち切る。屋敷において魔法植物に良く襲われるヨルにとっては、この程度の魔物など脅威足り得ない。


「マジックリーフはその小柄さ故に持ち得る魔石は小さく、その為包容する魔力も少なくなります」

「成程…その魔石は何処にあるの?」

「あの顔の様な葉の裏ですね」


 ヨルがティアラへと答える間に蔦を引き戻したマジックリーフが、頭上の木へとその蔦を伸ばして数枚の木の葉を叩き落とした。


「マジックリーフの攻撃手段は主に二つ。一つは先程の蔦、そしてもう一つは……」


 意志を伴うかのように飛来した木の葉をヨルがナイフで切り刻む。


「木の葉を刃のように飛ばすか、です」


 これがマジック“リーフ”と呼ばれる所以だ。自ら木の葉を生み出すだけの力は持たないものの、身近な木々から取った木の葉を利用して遠距離攻撃を可能とする。だが当然ながらその速度は投げナイフよりも遅く、仮に当たったとしても擦り傷程度で済む。


「威力はそこまでありませんが、油断すれば失明の危険性もありますので十分御留意頂けますよう」

「ええ、流石にそんなヘマはしないわよ」


 このままマジックリーフに攻撃を続けて貰えばそれで魔力が尽きて倒せるが、それでは主の“命令”を果たせない。

 ヨルが足を一歩踏み出し、そこから一気に加速して距離を詰める。当然妨害も入るが、ヨルにとってそれは妨害としての役目を果たす事は出来ない。

 襲い来る蔦を切り飛ばし、飛来する葉を的確に切り落とす。そして速度を維持したままマジックリーフに肉迫しナイフを横薙ぎに振るうと、その顔の様な木の葉がひらりと宙を舞った。


「マジックリーフの魔石はこの木の葉の裏にあります。なのでこの部分を切り離せば倒す事が可能です」


 宙を舞う木の葉をキャッチして、くるりと裏を返せば緑色の結晶体がへばりついているのが確認出来た。

 動力源(生命力)を失ったマジックリーフはその身体を維持する事が出来なくなり、地面へと倒れ込む。もうそれは、魔物では無く植物でしか無かった。


「投げナイフを扱われ始めたばかりのフェリシア様にとっては、丁度良い練習相手になるかと」

「逆にマッドゴーレムはフェリシアにとって相性が最悪ね」

「ナイフを投げたとしても大してダメージにはなりませんし、そのままナイフを奪われる可能性が高いですからね」


 水に刃物を突き立てても水面が波打つだけの様に、半液体生物であるマッドゴーレムに対してナイフでは有効な攻撃を与える事は出来ない。

 的確に体内の魔石を撃ち抜けれぱ話は別だが、そんな曲芸じみた事が出来るのはヨルくらいなものだった。もう誰も突っ込まない。


「まぁ魔術が使える私達にとってはそこまで驚異にならない魔物ばかりだから、基本はフェリシアが対応してみる?」

「やってみます!」

「じゃあ昨日教えた補助魔術を使いながらやってみましょう」

「……やってみます」


 寝る前にフェリシアがティアラから教えられた補助魔術は、初歩的な自身の身体強化の魔術だ。これは属性系統の魔術ではなく魔力を持っている人であれば誰でも扱える()()()()()()魔術だが、光属性の補助魔術に通ずる物がある為に教える事になったのだった。

 しかしこれは『身体を強化する』という事が具体的に理解出来ていなければ、扱う事が難しい魔術だ。現にフェリシアは五回に一回程度しか成功出来ていない。


「そんなに気落ちしないで。失敗してもフォローはするわよ……ヨルが」

「そこは私達って言っときなさいよ」

「だって一番不測の事態に対応力が高いのはヨルだし……大丈夫よね?」

「誠心誠意対応させていただきます」

「という事だから頑張りましょ!」

「はいぃ……」


 フェリシアは悟った。これは成功するまでやらされ続けるやつだと………。



 ◆ ◆ ◆



 ミレーナにおける大規模な一大行事である“宝探し”は、そこの警備にあたる冒険者達にとっても大きな仕事だ。何せダンジョンは低級である為脅威度は低く、その上ただ警備すれば良いので無駄に武器を消費しないで安全に金を得られるのだから。


 ────しかし。それはあくまで()()()()()()()()の話だ。


 その男はダンジョン最下層の一つ上を担当していた。訪れる学園の生徒に気付かれる事無く影から見守るだけの、“簡単な”お仕事。


 それ故に。少々男は此処が何処であったのかを忘れていた。


「……ん? なんだこれ?」


 男が見付けたのは、ダンジョンに生えた木に残された爪痕のような物。朧気な記憶を辿ってみるが、この担当するダンジョンにこのような鋭い爪を持つ魔物は居なかった筈だと思い至る。それが勘違いでなければ、これは────


「生徒の悪戯か?」


 ダンジョン内部。魔物が無限に湧き出る不可思議な穴。それは決して安定している場所などでは無い。

 冒険者であるならば、それは誰しもがその身を持って理解している事だ。……だが、この時男はそれを忘れていた。


「───は?」


 気が付いた時には既に視界はぐるんと回り……その後の彼の瞳に映ったのは、首無しとなった己の肉体。

 命を刈り取られた事に気付くことも無く、男の意識が暗転する。そこに残ったのは、物言わぬ骸と化した男だったもの。そして───己の爪から鮮やかな紅を滴らせる、“ソレ”だけだった。


「…………」


 “ソレ”は、ただ静かに爪を研いでいる。ただそれだけが、“存在意義”であるが故に。





因みにアーヴァンクの[特異体]の証明部位は昨日の夜にヨルがこっそりと“本当のランクで”冒険者ギルドに提出しました。

忘れてた訳じゃないよ、ホントダヨ。

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