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62. 令嬢は渇望する

 その後は順調に攻略が進み、とうとう一同は四階層へと辿り着いた。若干気不味くなっていた関係も既にほぼ元に戻り、今では三人が代わる代わる先頭に出てヨルの護衛の元戦いに参加していた。


「ふっ!」


 ヒュッ!


 最初の頃よりも遥かに速さが上がったフェリシアのナイフが、迷いなくアーヴァンクの眉間を貫く。


「大分上達なされましたね」

「ヨルさんのお陰です!」


 フェリシアとヨルの距離感は更に縮まって、敬称が“様”から“さん”へと変化していた。

 平民が貴族に対してさん付けで呼ぶ事などまず有り得ないが、ヨルが気にしない事とティアラが許可した事で特別に許されていた。


 嬉々とした様子でフェリシアがアーヴァンクの死体に近付いてナイフを引き抜いたが、その途端明らかに顔色が急速に悪くなった。

 その事に気付いたティアラが首を傾げる。


「どうしたの?」

「そ、その……ナイフ、が…」


 フェリシアが手にする先程までアーヴァンクに突き刺さっていたナイフ。脂と血に塗れたその刀身には、遠目から見ても明らかな罅が走っていた。


「すいません…壊して、しまいました」

「そうお気になさらないでください。元より私が使っていた物ですから、一概にフェリシア様が原因とは言えませんよ」

「そう、ですか…」


 先程までの喜びようが嘘のように鎮まってしまうが、気を取り直してヨルが新しいナイフを手渡す。


「ナイフの替えはまだありますので、幾らでも壊して頂いて構いません」

「…壊さないよう努力します」


 壊して良いと言われて遠慮なく壊す人などほぼ居ない。今度は力加減にも注意しようと思うフェリシアだった。


「ヨル。後どれくらいかかりそう?」

「そうですね……後十五分程度でしょうか」


 ヨルが記憶した【泉のダンジョン】の地図を思い起こして、最短経路から後どれだけの時間を要するのかを計算する。


「ならお昼は外で食べられそうね」

「…最初からそのつもりだったわね」

「だってそろそろお腹空いたもん」

「私も、結構空いてきました…」

「軽食程度ならば直ぐにご用意できますが」

「うーん…いえ、やめときましょう。動きが鈍くなるのも怖いし」


 満腹になるまで食べはしないが、それでも邪魔になる可能性がある。万が一はヨルが居るとはいえ、それが油断して良い理由にはならない。


「時間を優先されるのであれば、アーヴァンクを避けた経路をご案内致しましょうか?」


 最短経路を辿る場合、アーヴァンクとの戦闘は避けられない。基本一撃で倒せるとはいえ、時間が取られるのは確かだ。ならば遠回りにはなるが、最初から出会わない経路を辿る方が結果として時間の短縮になる。

 だがヨルの提案に対して、ティアラの返答は却下だった。


「歩く距離が長くなるのは嫌だわ」

「……そういう所は素直なのよね」


 それから約十分後。ほぼヨルの予想通りの時間で下の階層への階段へと辿り着く。この階段を降りればとうとう最下層だ。


「最下層も同じなの?」

「いえ。最下層は一つのフロアになっていて、本来であればダンジョンボスが居る場所です。今はもう居ないので、ご安心ください」


 ヨルの言葉通り、階段を降りればそこはホールのような広さがある部屋になっていた。そしてその中心には巨大な湖があり、その手前にティアラ達の背丈ほどある大きな宝箱と、一人の男性の姿があった。護衛の冒険者だ。


「お、来たか。お疲れさん。“宝”はこの中にある。一人一つ取ってくれ」

「分かりました」


 冒険者が指し示す宝箱の蓋をティアラが開ければ、その中には大量の()()が入っていた。


「これが?」

「ああ。なんでも集めると絵になるらしいぞ」


 所謂ジクソーパズルと呼ばれる代物だ。ティアラ達は詳しく教えられていないが、“宝探し”はそのピースを集め、最終的に絵の完成を目指す行事なのだ。


 人数分のピースを取り出して蓋を閉めると、冒険者が帰り道の階段を示した。


「こっから上がれば一直線で出れる。まぁまぁ長いから頑張りな」


 冒険者に見送られ、ティアラ達が螺旋階段を上り出す。中央から上を見上げれば小さな光の点が見えたが、それが地上の光だとするとかなりの遠さがあるとティアラが直感する。

 こればかりは文句を言っても仕方が無いので、大人しく上っていく。魔物が出ない分精神的には幾分か気が楽だが、純粋な体力勝負となるとこの中で自信があるのがヨルしか居なかった。


「ヨ、ヨル…後、どれ、くらい…?」

「そろそろ半分と言ったところですね。休憩なさいますか?」

「うん…ちょっと休む…」

「私も、キツイです…」

「ふぅ……」


 三者三様ではあるが、誰も彼もに濃い疲れが見える。元々ノンストップでダンジョンを攻略していたのだから、無理もなかった。

 ヨルが木でできたコップを取り出し、皮水筒から水を注いでティアラに手渡した。


「ありがとう」

「いえ。皆様もお飲みになりますか?」

「「お願いします」」


 追加でヨルが()()()木のコップを取り出して同じく水を注ぎ、二人に手渡す。


「まるでマジックね…」

「気になります…!」

「ヨル曰く、“侍女の嗜み”だそうよ」


 ティアラの言葉に二人が首を傾げるが、ティアラ自身も分からないのだからそれ以外の説明のしようがなかった。


「教える気は無いのでしょう?」

「守秘義務がありますので」


 例えティアラであろうとも、教える事が出来ない秘密をヨルは持っている。それを知るのは雇い主であるロイと、その妻メアリー。そして義理の母であるキャロルのみだ。

 ティアラはそれを知りたいとは思うが、“命令”を遵守するヨルは自分がどの様な聞き方をしても教える事は無いとティアラは知っていた。


「どうすれば教えて貰えるの?」

「そればかりは分かりかねます。私はそう“命令”されているだけですので」

「……そう」


 “命令”はヨルを絶対的に縛り付ける。それをティアラは嫌っていた。だがそれは個人の感情であって、ヨルにとっては有難迷惑になる可能性もある。


(…将来的に、お父様が教えてくれるのかしらね)


 ヨルが“命令”に従う理由。そして─────

















 ───────ヨルの“正体”を。


お気付きかと思いますが、書き溜めが無くなりました。

なのでこれからは不定期となります。ご了承くださいm(_ _)m

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