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47. 化物侍女は狂う

4000字は諦めた(早)

 メルヒと一旦別れたヨルは、当初の予定通り森の更に奥へと歩みを進めた。その道中、投げ飛ばしたナイフを回収する事は忘れない。

 岩へと()()()()()()ナイフを引き抜けば、その刃先に僅かな欠けと、刃全体に走る罅が見受けられた。


「ふぅ……また始末書です」


 ヨルが扱う投げナイフは私物ではない。キャロルから支給されている備品であり、ヨルは既に支給されていた分を使い切っていた。それ故にこれ以上壊す訳にはいかなかったのだが……結局また壊してしまった。

 刃先が欠けて壊れたナイフは威力や強度が低下するが、今から新しい物を用意する事は不可能なので仕方無く左太腿のホルスターへとナイフを戻した。


 ヨルの持つ投げナイフは両太腿に各三本、スカートの内側に二本の計八本。今回駄目になったのは三本で、十分な整備が成されているナイフは残りあと五本。それに加えて手持ち武器として扱う黒いナイフが二本あり、これは袖口の中に入っている。

 普段は予備の武器も持ってはいるが、持ち過ぎると身体の動きが鈍くなる上に、今日は量が()()()為置いてきていた。


 今から取りに帰るのは愚策だ。元より現在の得物はヨル専用にキャロルが誂えたものでありそう簡単に壊れはしないので、最悪二本のナイフさえあればどうにか出来るだろう。

 そう結論付けて、ヨルは立ち止まる事無く走り続ける。その途中で魔物に襲われたものの、至近距離からのナイフで喉元を一突きして危なげなく倒し、死体は捨て置く。森の深部ならば魔物も多いので、死体は腐敗する前に餌として消費されるのだ。

 その分魔物が集まりやすくはなってしまうが、何処にどのような魔物が現状生息しているのかを確認しやすくもなる為、ヨルは敢えて血が良く出る頸動脈を掻き切った。


 死体を放置した場所から少し進むと途端に魔物の気配を察知したので、ヨルが木の上に飛び乗って気配を殺す。

 するとヨルの視界が、その気配の正体を捉えた。


「……バークベアー、ですね」


 ヨルの用意した死体()に釣られて姿を現したのは、二本足で立つと大の大人よりも大きな巨体を持つ、バークベアーと呼ばれる魔物だった。

 その巨体に見合う口から放たれる咆哮は対象を恐慌させ動きを鈍らせる効果があり、耳の良いヨルにとっては天敵とも言える存在だ。


 のそりのそりと少しばかりの警戒感を滲ませながらバークベアーが死体の傍へと近付き、その肉に牙を突き立てたところでヨルの投げナイフが後頭部へと命中した。

 だが巨体故にその頑丈性も折り紙付きで、絶命には至らなかった。

 自らを傷付けた存在に、バークベアーが怒りを顕にする。だが気配を完全に殺しているヨルの姿を捉える事は出来ていない。

 ヨルが二本目のナイフを投擲しようと太腿に手を伸ばした、その時。



「───グォォォォォォォォンンン!!」

「っ!?」


 バークベアーの咆哮が森に鳴り響き、くらりとヨルの体勢が崩れる。

 不味いと思った時には既に手遅れで、ヨルの身体はそのまま地面へと叩き付けられた。


「うぅ…」


 未だガンガンする頭を押さえ、フラフラとした足取りでヨルが何とか立ち上がる。バークベアーの咆哮は効果時間そのものは短い。だがその僅かな時間であっても、隙を作るのは致命的だ。

 振り下ろされた巨腕を、半ば本能的に転がって躱す。空ぶった腕は地面に叩き付けられ、軽く爆ぜた。それだけで、その腕の腕力が脅威的である事を示唆している。


「はぁぁ……いケなイコですネ…」


 のそりと、ヨルが立ち上がる。その拍子に黒い外套がヨルの身体からずり落ち────




 ───その瞳は、怪しげな“紅”を放った。




「グォ「ウるさいデスよ」っ!?」


 もう一度咆哮を上げようとしたバークベアーが横顔を殴られ吹き飛ぶ。その衝撃で牙が折れたらしく、ポタポタと鮮血が口から流れ落ちた。

 それを見て、ヨルが目を細める。


「……()()()()()()

「ガォ…」


 力が入らないのか四本脚で立ち上がり、ジリ…とバークベアーが後退る。魔物が、ヨルに気押される。


 なんだ、なんなんだコイツは。


「羨ましいデスネェ…フフフ」


 ヨルが一歩踏み出せば、バークベアーが一歩下がる。その繰り返し。だがここは木が密集する森の中。四足で歩くバークベアーの巨体が後ろ向きで進めるほどの距離は、そう無かった。


「グォォ…」


 木に遮られ、バークベアーの足が止まる。苦し紛れに唸り声を上げてヨルを睨むが、その瞳には明らかな恐怖が映っていた。


 サク…サク…サク…


 草を踏み締める音が響き、ヨルがゆっくりとバークベアーへと近付く。その手には、夜の闇を象った刃が握られていた。


「フフフ…」



 ヨルが、笑う。



 嗤う。



 哂う。



 呵う。



 とても愉しげに。



 とても憎らしげに。



 とても羨ましそうに。



「アハッ」



 鮮血が、走る。



 バークベアーは、もう動かない。



 その瞳には、確かな恐怖の色を残して。



 ヨルが口元に付いた返り血を舐め取る。



「あぁ…アァ…もっト…もっと…」




 ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ

 コ  コ  コ  コ  コ  コ

 セ  セ  セ  セ  セ  セ



 ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ

 コ  コ  コ  コ  コ  コ

 セ  セ  セ  セ  セ  セ



 ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ  ヨ

 コ  コ  コ  コ  コ  コ

 セ  セ  セ  セ  セ  セ



 モット  モット  モット  モット



 モット  モット  モット  モット



 モット  モット  モット  モット!!



















「─────そこまでですよ」




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