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25. 化物侍女は呆れる

 過去問を確認したところ、ヨルでも問題無く回答する事が可能だと判明した為、ティアラは魔術学を受講する事に決めた。


「後はどうしようかしら」


 入学式で説明された学科を思い出しながら考える。現状選ぶ予定の学科だけで必要最低限の単位は取得出来る。だが、それではかなり暇な時間が生まれてしまうのだ。

 ティアラは一人で時間を潰す趣味を持っていない訳では無いが、態々学園に来てまで部屋に籠るのは勿体無いと感じていた。


「うーん…ねぇヨル。護身術の授業を取ってもいいかしら?」


 基本護衛が居る貴族であっても、最低限自衛の手段は持っておくべきだという考え方の元作られた、比較的新しい学科。それが護身術学だ。

 扱う内容は受け身に始まる体術から、服の下に忍ばせられる程の小さなナイフを用いての自衛方法。果ては射撃に至るまで、多種多様なものがある。


「何故私にお尋ねに?」


 ヨルが小首を傾げる。ティアラが受けたいものを受ければ良いので、態々自分に許可を取る理由が分からなかった。


「ほら、ヨルはもう学んでいるし…それに一応危ない学科だから、護衛であるヨルの意見も聞いておきたくて」

「そうでしたか。私は特に問題ありません。危ない学科という言葉には同意しますが、教師の方もいらっしゃいますからそう危険は無いかと愚考いたします」

「そう…なら受けてみましょ。身体を動かす事が出来るのは嬉しいし、合わなければ辞めればいいものね」


 自由に授業を受けられるからこそ、その授業を受けてから合っていないと思えば安易に辞める事が出来る。だがその分の時間は浪費した事になるので、入学したてだからこそ取れる手段でもあった。

 まだ受ける時間に余力はあるが、ギリギリ詰めても身体を壊しかねないとティアラは分かっていたので、ここで打ち止めることにした。

 ……もし詰れば、軽々と熟すヨルに付いて行けなくなると思ったのは内緒だ。


 ゴーン、ゴーン。


「あら、もうこんな時間ね」


 鳴り響く鐘の音にティアラが時計を見て呟く。これは学園内に設置された鐘の音だ。基本的に朝の七時、授業の開始と終わり、昼休憩の終わりと始まり、そして夜の七時に鳴らされる。先程の鐘の音は昼休憩の始まりを知らせるものだった。


「食堂に行ってみましょうか」

「かしこまりました」


 昼食を跨いで授業があるので、学園内には当然の如く食堂が存在する。因みに無料だ。ただし、食べ残すと罰金が発生する。

 食堂は学舎の横に建てられており、ティアラ達が辿り着いた頃には大分賑わいがあった。


「ここはどうやって食べるの?」

「あちらのカウンターでメインを注文し、その他の副菜は自分で選んで取る形式だそうです」

「あらそうなの。メインはあのカウンターの上に書いてある料理?」


 ティアラが長い列を捌くカウンターの上に付けられたボードを指差す。


「そうです。基本的に三種で、日によって内容が変わるそうです」


 これは食品の無駄を省く為の工夫の一つだ。全体数は全生徒数と同じで、それぞれの料理は均等に作られている。なので好きな物を食べたいのならば早い者勝ちなのだ。


 ティアラ達がトレー片手に伸びる列に並んで暫く。漸くカウンターの前まで辿り着いた。


「申し訳ありません。Cメニューは売り切れてしまいました」

「あら。ならBメニューで。ヨルは?」

「私も同じもので」


 Bメニューは所謂鶏肉のソテーだ。出来上がった料理をトレーに乗せて横にはけ、副菜を見繕う。


「……ヨル。せめて一つでも取りなさい」


 メイン以外何も乗っていないヨルのトレーを見て、ティアラが呆れを含んだ表情を浮かべる。取りすぎも良くないが、何も乗っていないのも貧相に思えるのでせめて一つでも取るべきだとティアラは思う。

 ティアラからの忠告を受け、ヨルが副菜が並ぶ棚に目線を向ける。朝ヨルが作ったような小ぶりなサラダやスープの他に、小鉢、パン等があるその中から、ヨルが手を伸ばしたのは小さな丸パン。それとサラダ。


「…まぁ無いよりましね」


 食べたくない物を無理強いするつもりも無いのでそれ以上は何も言わず、ティアラも自分の食べたい物をとって席へと座った。


「ヨルっていつもそれくらいしか食べないのかしら?」

「そうですね。基本的に食べ過ぎると動けなくなるので、半分程度に収めています」


 護衛であるヨルは、いつ何時も動ける様に万全の体調を整えておく必要がある。食べ過ぎで動けなくなるなど言語道断だ。


「それなら余計なお世話だったかしら…」


 ヨルに食べるよう進めたのは自分だが、ヨルにもそれなりの考えがあった事を知り、少し不安げな表情を浮かべる。だが安心して欲しい。半分程度に“収める”なのだから、別に半分きっかり食べている訳では無いのだ。寧ろ半分のそのまた半分程度の量になっている。


 早々にヨルが昼食を食べ終え、少し回りを見渡して観察する。やはりと言っていいのか、数あるテーブルには複数人のグループが纏まって食事を取っていた。


「私達は派閥に所属する必要はないから、必要以上に関わることも無いわよ」

「そうなのですか?」

「ええ。関わらなくて良いというより、関わる事が“出来ない”のよ。辺境伯は貴族の位としては侯爵と同等なのだけれど、国の防衛に関しては皇上に直接進言する事が出来る程の力があるの。だから一つの派閥に肩入れする事が出来ないのよ」


 皇上に絶対的な忠誠を誓うからこそ、辺境伯はその力を持つ事を認められている。だからこそ、一つの派閥に肩入れをしてしまうと、国のバランスが崩れる可能性があるのだ。


「楽でいいわ」

「……ティアラ様にピッタリな立場ですね」


 貴族の繋がりを煩わしく思うティアラにとってこの立場はピッタリだとは思うが、軽々と「楽だ」と口にしてしまうティアラに、珍しくヨルが呆れた表情を浮かべていた。










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