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19. 化物侍女は脅す

 後日。キャロルの元にヨルの合格を知らせる手紙と共に制服が送られて来た。その紺の制服を片手にキャロルがヨルの部屋へと向かう。


「ヨル、もう起きていますか?」

「…はい、どうかしましたか?」


 未だ寝衣に身を包んだヨルが扉を開けてキャロルを迎え入れる。


「ごめんなさいね、こんな早朝に」

「問題ありません。しかし()さえ吹いて頂ければ此方から伺いましたよ?」

「その必要はないわ。そもそもアレは緊急用のものでしょう? 今回はこれを渡しに来ただけだから」


 そう言ってキャロルはヨルへと制服を手渡す。それを両手で広げ、ヨルが首を傾げた。


「これは?」

「学園の制服です。合うものを送って貰ったけれど、一応サイズの確認をして頂戴」


 ティアラが既にヨルへ情報を提供していた事は知っていたので、端的にキャロルが説明する。


「分かりました」


 まだ業務は始まっていないので普段とは少し異なる返事をして、ヨルは傍らに制服を置いて寝衣を脱いで着替え始める。

 白のシンプルなブラウスに紺色のプリーツスカート。そして赤色のリボンにプリーツスカートと同じ紺色のブレザーを羽織れば、ヨルは具合を確かめるように身体を軽く動かした。


「どうかしら?」

「動きに支障はなさそうです。それに万が一は」

「“それ”は成る可く控えて頂戴。合わなくなれば言って新しい物を用意してもらう。それが本来“当たり前”です」

「分かりました」

「…うん。似合っているわよ」


 制服に身を包んだヨルを視界に収め、満足気にキャロルが頷く。今まで見る事が出来ないだろうと諦めていたが故に、その喜びも一入だった。


「そのリボンの色は学年が上がる毎に変わります。赤色が一年。青色が二年。緑色が三年ね」

「三年制なのですか?」

「……そういえば学園の詳しい内容は何も伝えていなかったわね。後で資料を貴方の部屋に届けておくから、読んでおいて」

「はい」

「じゃあ着替えて朝の集会に間に合うようにね。それと、()()()()()()()()()()から」

「分かりました」


 その言葉を最後に、キャロルが部屋を後にする。そして一人部屋に残ったヨルは羽織っていたブレザーを脱いで少し眺める。


「……“内側”なら何とかなりそうですね」


 そう呟いてヨルは引き出しから道具箱を取り出して、早朝集会まで作業を続けた。



 ◆ ◆ ◆



 ヨルの場合は元々用意された制服が送られて来たが、辺境伯の娘であるティアラの場合は一から採寸して作る事になる。なので今日はその仕立て屋が屋敷に来る事になっている。

 そう早朝集会で伝えられ、ヨルはティアラのご機嫌取りの為に本日丸一日はティアラに付くことになった。


「ティアラ様、お嫌いですからね」

「ええ…ヨルにしか頼めないの。お願いね」

「かしこまりました」


 身体を動かす事が好きなティアラにとって、何時間も拘束される採寸は嫌いなものの一つだった。その度にヨルが拘束中の話し相手になったりその後の発散に付き合うので、今ではヨルにしか任せられない業務の一つになりつつある。


 ティアラの朝の用意を済ませて部屋の扉をノックして開ければ、普段は無い“団子”がベッドの上に鎮座していた。


「……ティアラ様。朝ですよ」

「嫌。服の採寸なんて適当でいいじゃないの」

「そういう訳には参りません。大人しく諦めて下さい」


 容赦無くティアラが包まったソレを引き剥がせば、「ぎゃっ!?」と凡そ淑女には相応しくない悲鳴が響いてティアラがベッドに投げ出された。


「…ヨル。私、貴方の主」

「ええそうですね」

「……」


 不服そうに目を細めて睨み付けるも、ヨルの表情は変わらず淡々と準備を進めていく。そのブレない姿に諦めのため息を吐くと、渋々ティアラも朝の支度を始めた。


「ヨルも一緒に採寸するなら、私も嬉々として採寸してあげるわよ?」

「生憎私は既に制服の用意が終わっておりますので」

「…え」

「私は確かに子爵令嬢ではありますが、態々採寸する程立場がある家ではありませんから」

「……それには色々と突っ込みたいけどまぁ今はいいわ。それよりもうあるの?」

「? はい、今朝侍女長に持って来て頂きました」

「見せて!」


 先程までの憂鬱な表情は何処へ行ったのか。ティアラが爛々と目を輝かせて前のめりになる。ヨルはその態度に少しばかり考えを巡らせ、そして───少し微笑んだ。

 

「あ、ら?」


 その笑顔に薄ら寒いものを感じたティアラが、頬を引き攣らせる。


「でしたらティアラ様が無事に採寸を終えられましたら、お見せいたしましょう」

「…思ったより不当な提案じゃなかったわね」


 ふぅ…と少し気を緩めるが、直ぐにそれが間違いだったと気付いた。


「まぁそもそも採寸が嫌だと仰られたところで、ティアラ様に拒否権は無いのですが」

「いや、あの…()()()()なのは流石にやめてね?」


 若干泣きそうな目で訴える。ヨルがティアラの採寸の際に駆り出される一番の理由がそこにはあった。


(あの細腕に一体どれくらいの力があるのかしら…)


 軽々と持ち上げられて絶妙な力加減で抵抗出来ないよう押さえ付けられた当時を思い出し、ブルリとティアラが身震いする。

 ──ヨルにベッドに押さえ付けられて採寸した時の事は、ティアラにとって若干のトラウマになっている。


「ご所望でしたらいつでも」

「や、やります! やるから!」


 …ティアラは確かにヨルの主ではあるが、主導権を握るのはヨルの方が多かった。




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