第98話 謁見の間の死闘 その13~おっぱい神経衰弱とか楽しいですよ!~
会話の最中にも水位は加速度的に上昇し、大広間はことごとく水に浸かっていた。もう松ぼっくりたちは頭の先が水面に出ている程度である。これこそが僕の望んでいた展開だった。唯一の出入り口である正面扉はロックされ、文字通り蟻の這い出る隙間もなく密閉されている。窓は高い場所にあるのみで、水没の邪魔にならない。モーラスが何人いようが関係なく、一網打尽にする妙案だ。
「ナ、ナラバ、ツタヲ利用シテ這イ上ガレバ……ハッ!」
「残念だがそういうことだ。先ほどの水流攻撃で、そなた本体から伸びる余計なツタは全部切らせてもらった。もし性懲りも無くまた生やしても、再び切断するのみだ。万策尽きたな」
「ク、クソ! オノレ! 『災いの岩となる呪われた子』メガ! 地獄ノ業火ニ焼カレルガイイ!」
呪詛の毒を撒き散らしつつ、モーラスは水中に没した。南無。
※ ※ ※
【母乳!】
「『う』か、えーっと、梅の花ニップルクリップ!……もうそろそろいいかな? おっぱい縛りしりとりにも飽きたしな……」
【そうですね……】
僕と魔王は、今や大きなプールと化した謁見の間を、階段の端から見下ろした。放水は既に止まって久しいが、満々と湛えられてたゆたう水は全く引く気配はない。マンドレイクがどの程度無呼吸で耐えられるのかは寡聞にして知らないが、魔王の話だと10分ぐらい経てばさすがにヤバいだろうとのことで、現在7、8分程は経過したと思われるので、いい加減に引き上げてやってもいいだろう。しかし、どうやって……?
【なんかうまいことアレを引っこ抜く魔法はないんですか?】
「そなた、我をすごく便利屋扱いしてるが、さすがにそんなピンポイント魔法はないぞ! てかもう魔力がすっからかんだって言っておるだろうが!」
【そういやそうでしたね。でも、これ以上放っておいたら溺死しちゃいますよ。もっと情報を引き出さねばなりませんし……】
「なぁに、そろそろ午前の掃除の時間だ。どうせ外にいるのであろう、ミレーナ!」
「はーい、魔王様!」
魔王が突然大音声で扉に向かって呼ばわると、なんと同じくらいの音量で、呼び返すメイド長の声が返ってきた。すぐ近くで待機していたのか。




