第97話 謁見の間の死闘 その12~たまにおっぱいそっくりの大根ってありますよね?~
「あいわかった、軍師どの!」
即答しながらも複雑な指の動きを慣れた手つきでスムーズに行い、またも指ピストルの構えをとった魔王は、「あまねく水流を司る生命の源たるヴァイデックス神よ、その御力、我が指先よりほとばしり出て濁流と化し、金剛の鎧を穿つ矢となりたまえ! マーデュオックス!」と呪文を詠唱し、水煙を上げる音速の水鉄砲を一番近場のモーラスに叩き込む。その影響か、開きかけた殻はピタッと閉ざされ、ミサイル発射のカウントダウンはすんでのところで阻止された。
「よし、いけるぞ!」
魔王は電光石火の早業で、次々と振動するモーラスたちを行動不能に陥れつつ、うねるような軌跡を描いて僕の方向へと近づいてきた。そしてこちらに水流を向けないようバックステップで器用に階段を駆け上がってくる。大した運動能力だ。ちょっと肩で息してるけど。
「フーッ、さすがに徹夜明けの魔法と運動は心身ともにこたえるな。もうこの水芸やめてもいいか?……ってダメだよな、やっぱ」
【よくわかってるじゃないですか! 最大出力で持続可能な限りお願いします! 何故なら……】
魔王に指示を出しつつ、僕は後半部は声を潜めて伝えたい。
「毎度毎度簡単に言ってくれるよな、もうほとんど魔力空っけつに近いんだが……ま、いいか。どうせこれで終わりだ!」
魔王は玉座の高みから朝顔への水やりのごとく水を豪快にぶっ放し、高水圧で次々とツタを断ち切っていくと共に、階下を大海へと変貌させる。
「コノ水遊ビハ一体何ノツモリダ? コンナモノデ小生タチヲ無力化デキルトデモ思ッテイルノカ?」
モーラス本体がずぶ濡れのまま怪訝な声で尋ねるが、今までのようなやたらと自信に満ち溢れた調子とは異なり、戸惑いが見え隠れしていた。
「ああ、思ってるとも!モーラス、そなた、実は金づちだろう!」
「!」
その時、松ぼっくりの外殻に、明らかに先ほどとは尖う震えが走った。
「ナ……ナニヲバカナコトヲ。松ボックリトハ水ニ浮クモノダゾ」
「強がらずともよいぞ。それがそなたの本来の姿ならばな。だが否だ。そなたはマンドレイク、つまりは二股の大根がその正体だ。良く聞くがよい。果実や実など、地上で育った野菜や果物は水に浮くが、逆に根菜類など地下で育ったものは水に沈む。つまりそなたは自力で浮上することが出来ない!」
魔王は今僕が教えたばかりのうんちくをドヤ顔で演説した。




