第94話 謁見の間の死闘 その9~作者は最近おっぱいを揉んでいない!~
「ほほう、それは興味深い話だな。あの垂れ乳クソババア、軟禁しただけでは飽き足らず、我に刺客を放ってきた、というわけか?」
魔王の瞳に憤怒の火が付く。あたかも頭上の煉獄のように。
「確カニソレモアルガ、小生ハ呪ワレシ存在ノ貴様ヲ生カシテオクコトガ出来ナイ。コレハ正義ノタメノ戦イダ」
なんとモーラスが魔王軍幹部とは思われぬような発言をする。まあ、元から何考えてるのかわからないやつだったけど。
「はん、何をカヌマに吹き込まれたのか知らんが、我を殺すことがどう正義に繋がるというのだ? 聞かせてもらおうか」
「金泥病ダ!」
「!」
その言葉を受けて緊張が走った魔王の金色の瞳孔が大きくなり、闇夜の猫のようになった。だが数秒後には再び元に戻り、唇もニヒルに歪められた。
「まったく、何かと思えばそんなバカなことを……何の証拠があるというのだ?」
「貴様ガ産ミ落トサレテカラ金泥病ガ発生シタノガ何ヨリノ証拠ダ。ソシテ予言ガソウダト告ゲテイル、呪イノ子ヨ。シカモ金泥病ハ小生ノ一番大切ナ人ヲ損ナッタ。今ノウチニ貴様ノ息ノ根ヲ止メルシカナイ!」
初めてモーラスが声を張り上げて感情を吐露する。こんな熱い思いが殻の下に隠されていたとは知らなかった。これは強敵なわけだ。
「そうか……そなたもそんな妄言に惑わされている輩の一人か」
魔王は長い銀色のまつ毛を寂しげに伏せ、憂いを帯びた口調でそっとつぶやく。その様子はいつになく悲しそうで、まるでこの世界を創造したと伝えられる憂いの魔神とやらを彷彿とさせた。
【すみませんが、今の話は本当なんですか? 金泥病の原因が、魔王だっていうのは……】
追い討ちをかけるようで酷だったが、僕はどうしても聞かざるを得なかった。これは多分、非常に重要なポイントだ。
「そなたにはまだ伝えていなくて悪かったな、ムネスケよ。世の中には確たる根拠もなしにそう吹聴して我のことを責め立てる輩も多いのだ。特に愚かで迷信深い人間や亜人どもが、その根も葉もない噂を無闇やたらと信じ、挙げ句の果てには……」
【魔族側に戦争をけしかけてきた、というわけですか……】
僕はようやくこの世界の裏事情を正しく理解した。




