第93話 謁見の間の死闘 その8〜いっぱいすぎるおっぱいミサイル!〜
あたかも実った田畑を蹂躙するイナゴの群れのごとく、茶褐色の砲弾のレギオンが埋め尽くす戦場に、一条の赤い亀裂が走った。闇を蹴散らす日の出の曙光のように、そのひび割れは見る間に四方八方へと広がり、同時に焦げ臭い臭いが立ち上った。何が起こっているのか文字通り蚊帳の外で何もわからなかったが、弾幕の黒い壁が崩れ落ちて現れた向こう側を目撃した瞬間、謎が解けた。
なんと魔王が未だに掲げ持っていた火球は今や彼女よりも大きく育ち、しかもそこから赤い鞭が何十本も出現して、縄跳びの二重跳び以上の速度でヒュンヒュンと縦横無尽に振り回され、迫り来る松ぼっくりの雨を次々と打ち払い、叩き落していたのである。まるで炎で出来たヒュドラが意思を持って魔王を守っているかのようだった。
「見ろムネスケ、言ったであろう、火力を調整出来るとな。熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ」
疲れているかと案ずればさにあらず、魔王はいつものにんまり笑顔で僕にドヤった。
【それって調整って言うんですか!? でもまあ、元気そうなんで一安心しましたよ。しかし魔王城って思ったよりも頑丈なんですね】
僕はいつものように軽口を叩く魔王の姿に安堵しながらも、室内の堅牢さにも今更だが感心した。怒涛の銃弾が当たっても、壁も床もひび割れひとつ無かったのだ。確か修練場でもそうだったけど。
「ああ、これなら城全体に補強魔法がかけられているためだ。ちょっとやそっとじゃ傷つけることも叶わないぞ。さてと……」
魔王はつい視線がいってしまう胸元から汗を垂らして、天を支える巨人アトラスさながらマグマのような燃える大玉を持ち上げたまま、10人に増えた黒服軍団に向き直った。
「一体どこで分身の術なんぞ学んできたのだ、モーラス?」
「コレハ先程密カニ種ヲ飛バシテ植エテ生ミ出シタ我ガ子タチダガホボ分裂体ニ近ク、ツタデ繋ガリ意思統合シテイル」
本体ことモーラス一号が律儀に魔王に答える。確かによく見ると床にはツタが張り巡らされ、それぞれのモーラスへと伸びていた。さすが植物系モンスターだ。
「なるほど、便利なものだな。さて、さっき何か気になることを言っていたが……何故我の命を滅しようとするのだ? 給料ならちゃんと払っていたはずだが」
【魔王、そいつはスパイです! カヌマと密かに連絡を取り合っていたんです!】
僕はモーラスが口を開くよりも前にようやく伝えることができた。




