第92話 謁見の間の死闘 その7~家にとっとと帰ってママンのおっぱいを揉みたい!~
僕は幼い日の、湿気と青い草の匂いに包まれた雨上がりの公園を思い出す。そこには大きな松の木が生えており、よく松ぼっくりを拾いに行ったものだ。いつもはしっかり傘の開いた松ぼっくりが多いのに、その日は何故か全ての物がきっちり閉じていて、不思議に思ったのだ。
「あらあら、やっぱり雨の時は形が変わるのね。松ぼっくりって傘の中の種を撒き散らすんだけど、晴れた日は遠くまで飛ばせるため、広がるのよ」と付き添っていた母親(巨乳)が教えてくれた。彼女は家に帰ると、僕が後ろから彼女のおっぱいを揉み揉みしているにもかかわらず、固くなった松ぼっくりをドライヤーで乾かし、そのことを証明してくれた。
【……というわけで、さっき水をかけたのは逆効果だったわけです。すみませんでした。やっと思い出しましたが】
「謝らなくともよいぞ、ムネスケ!実にいい仕事をしてくれた! 引きこもりが家から出てきたぞ、ハハハハハハ!」
ようやくモーラスを覆っていた皮を剥くことに成功した魔王はことの外上機嫌で、下着姿で大きな胸を揺らしながら豪快に笑った。
「……マサカソウクルトハ思ワナカッタ。白箱ノ同伴ヲ許可シタノハ失策ダッタナ」
まだ身体にミサイルの生え揃っていないモーラスの表情は不動のままだが、声音にやや悔しさが滲み出ていた。
「さて、そろそろ降参するか? もはやその身を守ってくれる鎧は剥ぎ取ったぞ。我が攻撃魔法を防御する手段はあるまい」
「ソウハイカン。小生ハマダマダ戦ワナケレバナラナイ。貴様ノ息ノ根ヲ止メルマデハ!」
魔王の勧告を突っぱねたモーラスの雰囲気が殺気に満ちたものに変わり、語気が鋭くなる。僕は思わず尻込みしそうになった。
「おいおい、物騒なことを言うなよ。一体何が気に入らなかったというのだ? 少し落ち着いたらどうだ?」
「元ヨリ平静ソノモノダ。事ココニ至ッテハ隠ス必要モナイ。我ノ目的ハタダ一ツ……」
途端に室内にいくつか置かれていた観葉植物の植わっている壺が全て割れ、中からは9体ものモーラスが現れた。全身無数の松ぼっくりミサイルで武装した針山状態だ。
「「「「「「「「「「貴様ノ命ダ!」」」」」」」」」」
本体を含めた10体全員が叫ぶとともに、豪雨のようなミサイルの嵐が謁見の間を吹き荒れる。視界は完全に遮られ、流れ弾が何発も僕のボディをかすめ飛び、キンッと嫌な金属音を立てた。
【魔王ーっ!】
絶叫しながら、僕は彼女にモーラスが裏切り者の可能性があることを告げていなかったことを後悔した。




