第9話 真実のおっぱい
『安寧を司る慈悲深き神・ラゲプリオよ。かの者の身を焼く魔力の奔流を鎮め、安らぎをもたらしたまえ! フェンタニール!』
魔王が何やら様々な形に指を組んだ後、ハンドパワー発射的なポーズのまま、何かの文言を唱えると、たちどころに石の床に横たわったミレーナの胸の暴走は収まり、元の爆乳状態に戻った。
【す、すごい! 今のがひょっとして魔法ってやつですか!?】
「その通りだ、異世界の客人よ。もっとも我自身の力ではなく、あくまで古の神々の秘術をお借りしているに過ぎないがな」
魔王は名残惜しそうに手を離すとそうつぶやいた。
「助けていただきどうもありがとうございます……魔王様」
「礼は要らぬが、それよりも教えろ。以前聞いたことがあるが、何でも食べたものそっくりに化けて敵の目をあざむく珍しいスライムが存在すると……確かミミックスライムとか言わなかったか?」
「さ、さすが魔王様、よくご存知ですね。この後に及んで嘘は申しません。包み隠さずお話しします」
ついにあの鉄壁のミレーナがカブトを脱いで降参したので僕は心の中でガッツポーズを決めた。
「魔王様のおっしゃる通り、この胸の中のものはミミックスライムの亜種を品種改良したもので、他の動物に寄生する特徴を備えた極めて珍しいタイプです。普段は体内で寄生部位そっくりに変化し大人しくしているのですが、強い衝撃を受けたときには一時的に元の姿に戻るという話でした。あんっ!」
ミレーナは、取り調べ室で敏腕刑事の前でカツ丼を頬張りながら素直に供述する容疑者のようにしおらしくして訥々と述べた……胸を再びアクリル板に挟まれた状態で。
「なるほど、乳房になんぞ強い打撃を受けることは滅多にあり得ないから、何事も起きないだろうと高を括って愚かにも悪魔の誘いに乗ってしまったというわけだな、このにせデカパイめ。仮に人工物で胸を膨らませても、魔力が増えるわけではないぞ、痴れ者が! そしてその首謀者とは一体どこの誰だ!? キリキリ吐け!」
「ああんっ! 今身体に触れるのはやめてください! 言います! 言いますからぁ!」
【あのー、僕って一応検査機械で拷問器具じゃないんですけど……】
僕は悶え続けるメイドさんがちょっと可哀想になってきて、ついくちばしを入れた。それにしてもこの人、おっぱい弱すぎじゃないだろうか。
「何をぬかすかこの役得白箱野郎め! うらやましすぎて我が代わりたいくらいだわ! じゃなくって、今の状態の乳房の画像を撮っておくことも大事であろう? 今後のために」
「な、なるほど! そういう海よりも深いお考えがあったんですね! さすが我がご主人様!」
「お世辞は要らんから、早よ名前を言わんかいこの駄メイド!」
「ひんっ! わかりました! メディットです! 彼女の勧めでその気になってつい入れちゃったんです! ひああああああん!」
「なるほど、やはり予想通りか……」
途端に彼女は苦手な虫にでも出くわしたかのようなげっそりとした表情になった。
【横からすみませんけど、誰ですか、そのメディットさんって?】
「言っただろう、うちには優秀な錬金術師もいると。それが彼女のことだ。日夜怪しげな研究にばかり没頭しているが……やれやれ、今度ばかりは魔王軍四天王からの除名も考慮せんといかんな」
「だ、駄目ですよ魔王様! ここに幽閉されてただでさえお味方が少なくなっているというのに、これ以上の戦力の低下は……」
「そなたは黙って乳を圧迫されていろ!」
「ああん! ひ、ひどい!」
【あの、そろそろ出来たんでもういいですよ、ミレーナさん。しかし、これは……!?】
僕は上がってきた画像を一目見て絶句した。