第81話 金泥の海とおっぱい その4
おそらく金泥とは、刺激によって様々な細胞へと変化する幹細胞のような、万能感溢れる可能性を秘めたこの星固有の超生物(物質?)なのだろう。それが地球からの魔力波とやらによって活性化し、元々生命体のいなかったこの不毛な惑星を百花繚乱の緑溢れる星へと変えたのだ。謎なのはこの世界に女性しか存在しないことだが、多分紅い月に何らかの魔力波の選択性があるのだろう。詳しいことはよくわからないが……。
金泥に自分の髪の毛を混ぜて全身に塗りつけると妊娠するというのも不思議な話だが、地球上にもメスだけで単性生殖する動物は数多くいる。例えばギンブナはそのほとんどがメスだが、ではどうやって繁殖するかというと、他のフナ類の精子を卵にかけることで刺激を受けた卵が発生を開始するも、オスの遺伝情報を取り込むことはない。ひょっとしたらこの子作りの儀式も似たようなものかもしれない。もしくは満月が金泥に何らかの変化を与えるのか……?
ひたすら果てしなく考察を繰り広げていた僕は、離れた場所の岩場の影に、1人の人物が佇んでいるのが目に入った。人影ははっきりとは見えないが、どうやら黒髪の女性のようで、同じく黒い服に身を包んでいる。
(あれは確か……モーラス!?)
間違いない、普段あまり姿を現さない松ぼっくりの中身だ。何故こんな時間にこんな場所にいるのか定かではないが、僕は心にざわつくものを感じ、黙って彼女を注視していた。暗闇に溶け込んでいるかのような彼女は影の多いところへと徐々に遠ざかっていくがまだ何とか目で追うことが出来た。やがて岩場の連なる一番奥へ進んだかと思うと、彼女の前に突如金泥が集まり出し、何らかの形を取り出したので、僕は固唾を呑んで見守った。
(いつぞやのサソリババア!)
何とそこに突如現れたのは、いつぞやの朝礼で現魔王と共に謁見の間で姿を見た、下半身はサソリのカヌマとかいう垂れ乳ババアだった。距離があり過ぎるので、2人が何を話しているのかまでは皆目わからなかったが、とにかく彼女たちは何やら素早く会話を交わしている様子で、それが終わるとたちどころにババアの輪郭がおぼろになり、周囲に溶けて消えていった。
「おーい、白箱くん、そろそろ帰るガオ!」
メディットに呼びかけられるまで、僕はまさにタンスのようにその場所に突っ立っていた。




