第80話 金泥の海とおっぱい その3
『……で、今まで人間や亜人種にのみ発症が認められていた金泥病が、最近魔族や魔物にもボツボツと確認されているそうだガオ。このままだと、二大陸間の争いがどうなるか、皆目予見できないガオ!』
『ま、仕方ないガオ。現在のところ金泥病には対処療法あるのみで、根本的治療法がまだ確立されていないガオ』
確かにメディットは魔王との会話の中でこう語っていた。その後にも何か重要なことを二人で話していた気もするが、今はひとまず置いておくとして、重要なキーワードはただ一つ。
【メディットさん、つかぬことを聞きますが、金泥病とは一体何ですか?】
背後からの問いかけに、初めてメディットがこちらを振り返った。
「おお、よくぞその病名をご存知ガオ! ひょっとしてそっちの世界にもあるガオ?」
【いえ、そもそも金泥自体が存在しませんが、この不思議な金砂と疾患とどういう関係が?】
「よかろう、講義するからよく傾聴するガオ! 金泥病とは原因不明の難病で、身体の一部が徐々に金泥化して崩れていくという恐ろしい症状を呈するガオ! 痛みは特に伴わないが、進行を遅らせるにはとある薬しかなく、完全に止めたり治したりするのは、現在の医療技術では残念ながら不可能なんだガオ」
【へえ……それは大変ですね。遺伝病か、または感染症なんですか?】
「それすら何もわかっていないガオ。ただ、以前は人間や亜人種たちのみの疾患だと言われていたけれど、最近は魔族や魔物にもかかるものが現れたガオ! しかも何故か胸の大きい女性ほどなりやすいんだガオ!」
【なにその唐突なおっぱい情報!?】
俺は突っ込みつつも、どうしてこの世界ではずっとシリアスを保てないのだろうかと自問した。
「まあ、そういうわけで非力ながらこのボクも日夜治療法を研究しているんだガオ! 君も医者の端くれなら、診察時に注意してみるといいガオ。これにて授業は終了ガオ!」
【はぁ……色々とありがとうございます】
僕は再び海側を向いたメディットの背中に礼を述べつつ、謎多き疾患に思いを馳せた。身体が崩壊していくとは想像するだに心臓がぞわりとしてくるが、そもそもこの世界の出身ではない僕自身は罹患するのだろうか?




