第8話 悪魔の計略でおっぱいを罠にかけたい!
「待てミレーナ! 話はまだ終わってないぞ!」
「ですが私の胸が偽物だという証拠は出なかったのでしょう? であればこれ以上此処にいるのは無意味かと存じます」
「逃げるなおい! 疑惑が完全に晴れるまで部屋に帰さんぞ!」
言い争う主従を尻目に僕はどうすれば真相を暴けるかを頭脳をフル回転させて導き出そうと努める。今までの言動の端々から、ミレーナが何らかの豊胸術を行っているのはほぼ間違いない。先ほど地獄のような豊胸話をわざと披露した時にも魔王以上に怯えまくっていた。だが素直にこちらの話を聞くタイプでは無さそうだし、かといって強引に聞き出そうとするのはもっと無理だ。何かいい方法はないのだろうか……このままだと彼女はさっさと階段を降りて……階段だと!?
【魔王! ちょっとこっち来て! 耳貸して!】
「な、なんだムネスケ? いきなりどうしたというのだ?」
【いいから早く!】
僕は超神速で側にきた魔王に、どこから出ているのかはわからないが小声を出して耳打ちする。なんかとってもいい匂いがする気がしたが今はそれどころじゃない。
「ほほう、そいつは面白そうだ。よし、我に任せろ!」
魔王は美しい横顔に満面の笑みを浮かべて僕にウインクすると、今にもきざはしに足を下ろそうとしているメイドさんの方向にきびすを返すと、再び目にも止まらぬ縮地の神業で彼女に接近した。
「おおっと、すまんミレーナ! 足が滑ったあああああああ!」
「えええええええええええ!?」
かなりの大根役者ではあったが、魔王は打ち合わせ通り見事にミレーナに華麗な足払いを食らわせた。完全に不意を突かれたメイドは驚愕に両眼を皿のように見開いたまま、階段を踏み外してまるでダイブするように落下していく。僕はどうなることかと固唾を呑んで見守ることしか出来なかった。
「あああああああああああ!」
盛大な悲鳴を上げながら石造りの床に胸から激突したミレーナは、驚くべきことになんと数センチ浮いた。つまりバウンドしたのだ。
「ハハハハハ、ミレーナ、そのおっぱいは凄い便利だな! 素晴らしいクッションではないか!」
自分が落としたくせに高みの見物の魔王はなんと大口を開けて呵々大笑している。なんというか、あんまりな上司だ。
「ひっどいです魔王様! 絶対わざとでしょ! 何てことするんですか!?」
「すまんすまん、悪かった、ミレーナ。だがお前、あんな高い所から落ちたっていうのに痛くはないのか? 怪我はどうだ?」
「えっ!? そ、そういえば、大して痛くありませんでしたね……怪我もまったくありません」
「ほほう、それは重畳! ということで、実験は大成功だな! のう、軍師ムネスケ殿!」
【僕は軍師でもムネスケでもないんですが、概ね成功ですね】
「大きな胸だけにな!」
【やかましいわ!】
いかん、思わずまた突っ込んでしまった。でも魔王の奴は嬉しそうにしているからいいか。
「こ、こんなことはなんの証明にもなりません! たまたま無事だっただけです!」
「おいおい、この期に及んでまだ言い張るつもりか? 普通の胸のやつがぶつかっても、そんな奇妙なことになると本気で思っているのか、ああん?」
「うう……」
まるでヤンキーのような魔王の凄みにもはやミレーナは陥落寸前だ。いいぞもっとやれ。
「いつまでも隠し通せると思うなよ! いい加減に観念しろ!」
「で、ですが……ってうわあああああ!」
あくまで抵抗を続けるミレーナの胸が、突如メイド服を突き破らんばかりにボコッといびつに膨れ上がった。彼女は咄嗟に上から押さえるも、胸の別の個所がまた膨隆を繰り返す。明らかに何かの異常事態が発生していた。
「おい、大丈夫かミレーナ!?」
即座に階下に駆け下りた魔王は、白魚のような両手を彼女の胸元にかざす。何かを必死に感じ取っている様子だ。
「これは……何らかの魔力の暴走だな。おい、胸に何をしたのか正直に白状しろ! でないと助からんぞ!」
「す、すみません魔王様! 私は……スライムを胸に注入したのでございます!」
「【スライム~!?】」
今度は僕と魔王の呆れ声が綺麗に唱和した。