第78話 金泥の海とおっぱい その1
初めて城の外へ出た僕は、潮の香りを存分に浴びながら、砂浜へと続く石畳をゴロゴロと自力で進む。満月の夜だからこそここまで出来るのだろう。その源たる紅き円盤は中天に上り詰め、周囲の星々までもが血に染まったように見えるほどだった。
その真下に広がる海はなんとほぼ一面金泥に覆われ、波の動きに合わせてチカチカと地上の星のように瞬いていた。朱金色の絨毯の合間に本来の海面が黒く覗いている様は、まるで流氷が到来した冬のオホーツク海を連想させた。以前魔王の部屋の窓から眺めた時よりもグッと間近で鑑賞したせいか、鮮明度と迫力が桁違いで、自分の心を大きく揺さぶる何かがあった。ちなみに海の向こうには対岸が見え、そこにも何か城らしきものが建っているが、闇に紛れているせいかよくわからない。
「今夜は予想通り金泥が全体的に広がっているガオ! つまり絶好の子作り日和ガオ!」
メディットが潮風に吹かれる長い金髪をかき上げながら、よくわからんことを言う。
「それじゃあ行ってくるニャ! 皆はここで待っているニャ!」
「わかったニャン、レミッチ姉!」
「頑張るニャア! いい子を孕んでくるニャア!」
「とっとと行ってこいてやんでえこのやろう!」
青い水筒らしき物とハサミを手にしたメイド姿のレミッチに、同じくメイド姿の三人の猫娘が口々に呼びかける。キムリアとハイシー、そしてザガーロだ。てか四女だけ相当ひどいな。ちなみにザガーロの耳は黒色だがアゲハ蝶のように大きい。
レミッチは皆に笑顔で応えると、そのままくるりと向きを変えて砂浜をタッタッと身軽に駆けていく。僕とメディット、そして残りの三人の猫娘たちは無言で見守っていた。「海辺で子供を作る」ということ以外何も聞かされていない僕は、彼女の行動が理解出来なかったが、ここで口を挟むのは野暮だと思ってひたすらタンスのふりをしていた。しかし男がいない世界で子供を作るには単性生殖以外に無いとは思うのだが……。
やがて波打ち際までたどり着いた彼女は、なんとメイド服をバサッと脱ぎ捨てると、耳の色と同じく上下黒の下着姿と化して、小ぶりだがすらっとしたスタイルと調和したおっぱいをプルンと揺する。そしてそのままズンズン海に足を踏み入れ、蛍が群れ飛ぶように光る海中に手にした水筒を突っ込むと、たっぷりと海水を汲み取った。まるで印象派の絵画のような美しい光景に、その意味もわからない僕もただただ見とれていた。




