第75話 あるおっぱいが大きい魔神の追放物語
太古の昔、地球の全生物や無機物は魔力を有し、魔法を行使する者もいた。そして人間を超えた者として暴食、色欲、怠惰、強欲、憤怒、嫉妬、傲慢、そして憂鬱の八つの大罪を司る魔神が存在し、人類を含む全生物を支配していた。彼らは一様に強大な魔力を有し、各々の象徴する罪に属する能力を得意とした。だが、中でも憂鬱の魔神オレンシアの異能は他を圧倒し、信者は増える一方だった。オレンシアは豊満な胸を持つ美女だったが、彼女の憂いに満ちた瞳に一瞥されただけで、皆甘い死の誘惑にとりつかれ、息をするように易々と己の命を絶っていった。つまり、ありていに言うと彼女の力は世界を滅ぼすものだった。
他の魔神たちは次第に彼女の存在を危険視し、ついには滅ぼして闇に葬ろうと企むも、むしろ次々と返り討ちにされていった。だが大罪たちが死に絶えんとするまさにその時、彼らの最後の呪いが発動し、オレンシアを一匹の矮小なアメーバへと変え、更に彼女の邪悪な宝物と共に、地球よりはるか遠く離れた金泥に覆われた惑星トラゾドンへと追放した。
今や他人の肉眼で見ることすらかなわなくなった哀れな彼女はあらゆる魔法を駆使するも、その身にかけられた呪いは強大無比で解くことは不可能だった。正に憂鬱を司る者にふさわしく絶望に打ち沈む彼女だったが、死ぬことすら出来なかった。こうして無為な日々を送るも、地球がたまらなく恋しくなった彼女は残ったほぼ全魔力を使って、惑星の上に紅い月を造り出し、それを使って地球から発する極わずかな魔力波を受信する、いわばアンテナとし、更にその波が地表に降り注ぐよう調節した。
こうして気が遠くなるほどの時を経て、魔力を浴び続けた金泥に、ある満月の夜に奇跡が起きる。無生物の単なる砂が集まって動植物の形を取り、生命活動を開始したのだ。草木や動物は言うに及ばず人間、亜人種、魔物、そして魔族……かつて地球上に存在した、あらゆる伝説の種族を含む生命たちが動き、喋り、生活し、そしてまた再び命を育んでいった。金泥の神秘の力はその後徐々に弱まっていったが、今でも魔法などによって、様々な形で利用されている。
「とまあ、以上がこの星の創世神話だ。そのためそちらの世界では大罪の数が八つから七つに減ったそうだ。その後の魔神オレンシアの行方はようとして知れないが、謎の大陸に住んでいるとも、月に上ったとも言われる」
魔王は物語を締めくくると、窓の外に輝く紅い月を見上げた。




