第72話 やっぱりおっぱいを揉ませろーっ!
「調子はどうだ、ムネスケ? ちょっとすっきりしたか?」
【えっ!?】
あっけに取られているうちに、能登川先輩の口調がいつの間にか魔王のそれに変わっていたので、僕は二度見した。なんと懐かしい黒髪の女性の姿は輪郭がぼやけつつあり、朝靄が晴れるがごとく見る見るうちに崩れ去っていった。その背後には、まるで白黒反転したかのように銀髪の魔王が直立不動のまま現れた。幻にすがりつくような気持で、僕は彼女に問いただした。
【え……ええ、お蔭様で落ち着きました。ですが、今の先輩の姿は一体何だったんですか?】
「あれは我が得意とする創生魔法だ。偽りの生を持つ存在を束の間の間だけ現出させることが出来る。彼女の姿かたちは、いつぞやそなたが寝言で言っていた通り、そちらの世界のせえらあ服とやらを着せ、我に似せて作ってみたが、どうであった?」
【そんなことまで言ってたんですか、僕!?】
「ああ、最初の晩、我がずっとそばにつき添ってやっていたのだが、始終ブツブツつぶやいておったぞ。そなた、普段一人で寝ているから気づかなかったのであろ?」
【うがあああああーっ!】
自分すら知らなかった秘密を暴露されて、僕はちょっと死にたくなった。
「で、実際のところどんな感じだ? 一時的なショック療法で正気に戻ってはいるようだが、まだおっぱい揉み揉み欲求は強いのか?」
【そうです……まるで黒くて巨大な龍が身体の中でとぐろを巻いて居座っているような気分です。今はまだ何とか理性で押さえ込んでいますが……】
「そうか。こういったことは以前からあるのか?」
【はい……】
僕は包み隠さず正直に、今まで内緒にしていた禁断症状について語った。事ここに至ってはこれ以上隠し続けるのは不可能だし。常に肉まんやゴムボール、おっぱいマウスパッドなどをカバンに忍ばせていたり、どうしても我慢出来ない時はおっパブに行ったり、巨乳のママンが待つ実家に帰ったり……
【でも決して犯罪行為に手を染めたことはありません! 信じてください!】
「お、おう……」
魔王はちょっと目元が泳いでいた。トラストミー!




