第69話 僕の求めるおっぱいを揉ませろーっ!
【おっぱいおっぱいーっ! 今そこにあるおっぱいーっ!】
もはや理性のタガが外れておっぱい獣と化した僕は二枚のアクリル板をガッチガッチとかち合わせながら階段を上っていった。
「もう言葉すら通じませんか……こうなったからには、我が古代妖精流秘奥義で原型を留めないくらいの鉄クズにして差し上げるのがせめてもの情けですが……」
そこまで口上を並べると、ミレーナの瞳に一種の憐憫に似た感情が揺らめく。次の瞬間、彼女は何を思ったかメイド服を勢いよく脱ぎ捨て、いつぞやの夜のごとく上下の真紅の下着姿のみのあられもない姿となった。
「ここ1カ月、あなたが作戦参謀として我々魔王軍のために貢献してくれたことは、不本意ですが私も認めます。ですから今回は特別に私のこの胸を揉むことを許可します! それであなたの気が済んで激情が鎮まり丸くおさまるのであれば、この身など安いものです。さあ、心置きなく存分に揉みなさい!」
彼女はたわわに揺れる二つのビーチボールを目の前に見せつけてくる。普段の僕であれば彼女の尊い自己犠牲の精神に心を打たれ、こうべを垂れたことだろう。だがあいにく、今の自分にとっては彼女の決死の提案など割り箸の袋に入っている爪楊枝ぐらいほどどうでもよいものに過ぎなかった。
【いくら爆乳とはいえ誰が貴様の偽乳なんぞ揉むものかクソババア! 本物のおっぱいを揉ませろーっ!】
「うっ」
僕の鋭い指摘により、一言の元に存在を否定されたミレーナは胸を押さえてうずくまる。そこへ僕が吶喊してきたため、「くっ、殺せーっ!」と泣き喚きながら、これまたどこかへ走り去ってしまった。南無。
【おっぱいおっぱいおっぱいーっ! 限りなく天然なおっぱいーっ!】
自分でも何を言っているのかよくわからないまま、痴漢者トーマスじゃなかった機関車トーマスのような猛スピードで僕は、夕陽が差し込む無人の廊下を突っ走っていく。この辺りは確か魔王の居室がある区画とのことで、今まで近づいたことはない。高そうな鎧や壺や絵画などが所々に飾られており、まるで美術館の中のようだ。幸いなことに今のところ一つも破損せずにやり過ごしているが、いつまで持つのかは自分にもわからない。
と、その時、遠くから人の話し声が聞こえてきた。




