第55話 修練場の戦い その10〜最後の四天王のおっぱいを揉みたくない!〜
「そいつはちょっと勘弁願いたいな。こう見えてもまだ嫁入り前だし。だが、そんな恐ろしい手を使われたら、中々厄介だ。ムネスケよ、何か良い策はあるか?」
【うーん……】
僕はメラメラと燃え盛る松明の炎を見つめながら、頭を悩ませた。状態異常を引き起こす特殊攻撃を破る手段が本当にあるのだろうか?
※ ※ ※
「♪迷える子羊よ、全ての憂いを忘れ、甘い香りに心を委ねなさい
麗しき恋人に愛され、魂を癒されなさい」
結局あの方法で良かったのだろうかと記憶を反芻していた僕の聴覚に、たぐいまれなる美声が流れ込んできた。リプルの呪歌が始まったのだ! 魔王を見ると、耳を塞ぐことなどとうに放棄し、ただうっとりと聞き惚れている。まずい!
「♪彷徨う旅人よ、全ての衣を脱いで、懐かしい母の胸に抱かれなさい
海底の寝所に誘われ、安らかに眠りなさい」
リプルの熱唱に更なる力が宿る。玉を転がすような妙なる音色にミレーナやメディットまでもが陶酔しており、もはや修練場のあらゆる生命体が心を奪われていた。そしてなんと驚くべきことに、今まで微動だにせず壁際に控えていたあの巨大松ぼっくりまでもがガタガタと小刻みに振動していた。
【か、笠が……開く!?】
先ほどまでは新鮮な魚の鱗のようにビッチリと閉じていた松笠の部分が、歌に合わせて少しずつ開きつつあった。やがて限界に達したのか、一挙にめくれ上がったかと思うと、驚くべきことに、てっぺんに女性の頭部が現れた。
【ああ……!】
僕は現在魔王の試合中でしかも極めてピンチであることも一時的に忘れて、時ならぬ最後の四天王の出現に瞠目していた。何というか、彼女は黒髪長髪の美女と表現すべきなんだろうけど、顔面を形成する全てのパーツが少しずつずれているような不思議な印象を受ける人物で、見ているだけで心がザワザワと落ち着かなくなる、そんな女性だった。
「アアアア……」
おそらくモーラスという名だと思われる女性は、髪と同じ黒色の瞳を虚ろに開いてうめきつつ、徐々に身体の方も姿を現しつつあった。やはり黒色の服に身を包んでいたが、その下から覗く両のおっぱいは松ぼっくり状で、やはり松笠に覆われていた。揉みたくねえ!




