第52話 修練場の戦い その7〜純粋に魔王のおっぱいを揉んでみたい!〜
「ぐおっ、痛っ!」
魔王はずぶ濡れになった途端、普段は端正そのものな顔を苦痛に歪めて、トゲの刺さったままの左腕を抱えてもがき苦しむ。
「ハハハ、急に疼痛が悪化したガオ? ゴンズイの毒は水を浴びるとより痛みが増すんだガオ! 動けなくなる前にもうとっとと降参するガオ!」
メディットの高笑いが止まらない。彼女の降伏勧告が突きつけられるも、魔王は相手を意に介するそぶりも見せず、濡れ鼠状態のまま右手でトゲを抜き取った。そして更に移動する。
「な……何を企んでいるガオ? 助かる手段はないガオ!」
「いいや、あるね!」
魔王は修練場の隅で赤々と光を放つ松明に近づくと、傷ついた左腕を炎の上にかざした。
「どういうつもりだガオ!?」
今まで勝利を目前に控えて意気揚々としていたメディットの顔が、魔王の意味不明な行動に困惑し、余裕を失う。
【どうですか、調子は?】
「ああ、随分と楽になったよ。さすがうちの軍師殿は素晴らしいな」
魔王は未だに血の滴る左腕をグーパーグーパーし、動きを確かめる。どうやら痛みはだいぶ消失したようだ。
「な、何故楽になったガオ!? おかしいガオ!」
「何もおかしなことはないさ、メディット。確かにそなたの言ったようにゴンズイ毒はタンパク毒といって水を被ると威力が増すが、逆にぬるま湯では変性して効果を失っていくのだ。玉子の白身のように固まるのだと。どうやらそこまでは知らなかったようだな」
「ク……どうしてそんな知識があるガオ!?」
「だからそこに突っ立っているムネスケが教えてくれたんだよ。試合前にな。どうやらリプルの足魚はゴンズイのようだと見抜いて、毒の対処法をレクチャーしてくれた。もし刺さって水攻撃を受けた場合は速やかに松明の所まで移動して温めろってな」
「そ、そこまで先を読んでいたガオ!? 信じられないガオ!」
「どうだメディット、これこそがムネスケが参謀たる所以だ! そして我のおっぱいを揉みたいという純真な動機がここまで彼を強くし、能力を導き出したのだ!」
「うう……、母乳を飲みたいというボクの想いよりも強力だガオ……」
なんかメディットが変な風に魔王に言い負かされて凄く落ち込んでいる。いや、そういうわけじゃないから!……多分。




