第43話 セイレーンの寝所 その10〜おっぱいの検査器具を悪用してはいけません!〜
「なるほどニャン。つまりどこかに何か別の病気が潜んでいるってわけかニャン?」
「そそそそそれはそれで困りましたね……うう……」
艱難辛苦を乗り越え異世界初の乳管造影検査という大偉業を成し遂げたというのに収穫ゼロと聞かされて、キムリアとリプルはがっくり肩を落とした。
【ま、まあ、でも重篤な病気じゃなさそうだとわかっただけでもすごい進歩だよ! 皆そんながっかりしないで!】
「やっぱりヤブだニャン、このタンスの出来損ない……メイド長の言う通り、海の藻屑と化した方が世のためかニャン?」
ボソッと猫娘が聞き捨てならぬ毒を吐く。目がちょっと本気っぽいのが怖い。
「だだだだ駄目ですよキムリアさん! こんなに協力してくれたのに……」
リプルが僕に向かってこようと不穏な素振りを見せる猫娘を制するかのように、鉤爪を広げて彼女の前に立ちはだかる。結構いい人だ。
【あれ? ちょっと待って!】
僕はその時、今まで雑にしか見てこなかったリプルの左の鉤爪の一本に、真新しい血のような物が付いていることに気づいた。彼女の今までの一連の行動からは、特に怪我をした様子はなさそうだったが……
【その血はどこでついたの? 血性乳汁分泌は右側のおっぱいの方からだし、服を脱ぐ時にうっかり触ったわけでもなさそうだけど……】
「ええええっ、これですか? こここここれは……ハッ!」
首を捻り、何かを必死に思い出す仕草をしていたリプルだが、突如何かに気づいた様子で顔が茹でタコのように真っ赤になり、口を閉ざした。
【どうしたんですか? 病気に関係することかもしれないので、はっきり言ってください!】
「でででででも……」
「でももデーモンもないんだニャン! さっさと吐いて楽になるんだニャン!」
「きぴいいいいいいいいっ!」
もはや拷問官と化した猫娘がさっきのゾンデをまだ洗ってもいないのにリプルの可愛らしい鼻の右の孔に突っ込み、グリグリと動かしている。おいおい、鼻血を吹くぞ!
「この卑しい下品な乳のメス鳥め、早く言うんだニャン!」
「いいいいいいい言いますからやめてえええええ!」
「えーっ、もうゲロっちゃうのかニャン? もうちょっと楽しませてくれニャン」
クソ猫はひどいことを喋りつつも、リプルの鼻孔からヌポッとゾンデを引き抜いてくれた。




