第4話 おっぱいが偽物かどうかを揉んで調べたい!
「そりゃそうだろう。だって数年前までは魔王軍四天王の中で一番貧乳だったそなたがいつの間にやらそれは見事なミルクタンカーとなって、以前の服装はクラシカルなロングスカートだったくせに今じゃそんなチャラついた胸出しミニスカメイド服なんぞを着こなしているではないか。疑うなってのが無理ってもんだ」
「こ、この胸は……自分で揉んで育てたのでございます!」
歯をくいしばって主の嘲弄に耐えていたミレーナが、遂に我慢出来なくなったのか、文字通り胸を張って抗議する。皆、微妙な雰囲気となり、しばらくその場が静寂に満たされた。
「本当にそうなのか? あれって迷信じゃないのか?」
やはり口火を切ったのは魔王だった。猜疑心を露わにして隠そうともしない瞳だ。
「本当の本当です! 後……牛乳です!」
「牛乳だと!? 何を言ってるんだ?」
「あれ飲むと育乳出来るんです! 特に思春期の間は!」
「思春期ぃ? そなた一体歳幾つだよ!?」
「165歳です! 知ってるくせにいいいいいいい!」
メイドさんはすっかり涙目になって両手を握りしめている有様だ。だんだん聞いているのもかわいそうになってきて、僕はとてもこの場に居づらくなってきた。しかし二十代にしか見えないのに165歳とは、異世界って怖いな。
「語るに落ちたなミレーナ。そんなに妄言を吐く暇があったらとっとと服を脱いで胸をさらけ出すがよい。それとも一人では出来ないと申すか?」
「バカにしないでください! 魔王様の手は借りません!」
主人をジト目で睨みつけながら、彼女は自らメイド服を瞬時に脱ぎ捨てると、上下の下着のみの姿となった。ちなみに色は髪の毛と同じ赤だ。ミレーナの姿態は思わずため息が漏れそうなほどの美ボディで、褐色の肌と相まって独特の魅力を発散していた。出るところは出て引っ込むところは引っ込み、特におっぱいは少なく見積もってもIカップはあろうかというほどの爆乳だった。但し敢えて苦言を呈するならば、どこか人工的な印象を受ける気がした。例えて言うならば豊胸手術を受けた女優のような感じだろうか……ってそのまんまだな。
「言っておくがブラも取らないとダメだぞ」
「こ、これは……直前に外します! さあ、どうぞよろしく!」
明らかにやけっぱちとなったミレーナは、寒そうな格好のまま僕に向かって腰を折ると一例した。同時にたわわな胸が揺れるのが非常に目の毒だったが。
「ほらほら、ここまでお膳立てしてやったんだ。そなたも挨拶するがよい、ムネスケ」
【は、はぁ……こちらこそよろしくお願いします】
お辞儀は無理だけど、僕も一応どこから出ているのかわからない声で返礼する。
「なあに、そう気張るな。こんな簡単な任務、そなたのような乳頭じゃなくてチートな機械なら朝飯前であろう。パッパと終わらせて偽乳の真実を暴いてやれ。可能であろ?」
【そりゃまあ中に異物があればすぐにわかると思いますけど……まだやるとは言ってませんよ】
「まあまあそう言わず。やってくれたら元に戻る方法を我が軍総出で探してやるよ」
【はぁ……でも、本当に良いんですか?】
「構わん! 我が許す!」
【……はい】
こうして魔王のお墨付きをもらった僕は、異世界での初仕事を行う羽目になった。なんか上手いこと流されてしまったが、しかし主従のやり取りを側から観察して気づいたのだが、この魔王様、人を操るのに手慣れている。さすが人の上に立つお方といったところであろうか。やけにどんどん気さくな態度に変わってきた点も、突っ込みで疲れるが、別に嫌いじゃない。いつしか僕は、彼女に協力してあげてもいいかな、という具合に心の天秤が傾いてきた。
確かに前触れなく機械の身体になってしまったのはショック過ぎるが、以前自分が密かになりたいと願ったマンモグラフィーになったのだけが不幸中の幸いと言うべきか。そして、なってしまったからにはそれを最大限活用してくれる人物の元で切磋琢磨するのも今後の生きる道としては有りかもしれない……とりあえずは、だけど。それに、初めて出会ったときからずっと頭の片隅に引っかかっているのだが、彼女を見ていると記憶の大事な部分が熱病のように疼いて、油断すると感傷的な気分に引き込まれそうになるのだ。……何故だ?