第37話 セイレーンの寝所 その4〜おっぱいの検査法〜
【いいですかリプルさん、血性乳汁分泌がある場合の診断としては、大きく分けて、命に別状のない良性の乳管内乳頭腫という腫瘍と、危険性の高い悪性の乳管内癌のどちらかが主な原因として疑われます】
「ええええええ!? にゅにゅにゅにゅにゅにゅ乳癌ですか!?」
リプルの顔は一瞬で瑠璃のような色と化し、ガタガタ震え出した。やはりこの世界でも乳癌は恐ろしい業病として認知されているようだ。
【落ち着いて下さい。まだどちらかは分かりません。鑑別するには検査が必要ですが、分泌物を調べる乳汁細胞診や腫瘍に直接針を刺して取る生研といった検査は残念ですがこの世界では不可能です。残るは乳首の先端の乳管口から水溶性の造影剤を注入する乳管造影検査という手法ですが、あいにくそれもここには……いや、待てよ!?】
話しながら自分でも考えをまとめているうちに、僕はある一つの可能性に思い当たった。異世界に召喚される直前の僕の記憶によれば、確か……!
【リプルさん、お願いがあります!】
「ひゃ、ひゃい! なななななんでしょうか!?」
【すみませんが、僕の下腹部辺りにある引き出しを開けて、中身を見せて貰えませんか? 自分ではできないんですよ】
「わわわわわかりました!」
慌てふためきながらもフンスフンスと鼻息荒く、リプルは尖った鉤爪を器用に引き出しの取っ手に引っ掛けると、ズイッと音を立てながら引っ張り出した。
「こここここれでよろしいですか?」
ザザッと適当にかき集めて持ってきてくれた物の中には、細長い金属製の棒と、注射器と、そして液体のたゆたうガラス製の小瓶が見て取れた。
【ビンゴ! これだけあれば十分です!】
改めて僕は自分の用意の良さと運の良さに感謝した。あの朝、僕は手術用の道具類や薬などを試しに引き出しにしまっていたのが今になって見事に役立ったのだ。
「ここここれらは一体何ですか?」
【この金属製の棒は涙管ゾンデといい、これを乳頭の乳管開口部に差し込み中をちょっと拡げ、次にその横にある小瓶の中身の造影剤を針のついた注射器という道具で吸い出し、乳管の中に流し込みます。少し痛いですけど、すぐ終わりますよ】
「しええええええええええ!」
リプルは硬直し、気絶した。




