第3話 魔王軍のおっぱいを揉みたい!
「まあそう悲観的になるな。細かいことばかり気にしていたら禿げるし、人を恨んでも何も解決しないぞ」
【全然細かくないし機械だから頭すでにツルッツルだし何より諸悪の根源であるあんたが言うなやあああああああ!】
いかん、絶叫のし過ぎで機械のくせに息切れしそうになってきた。冷却が必要だろうか?
「確かにそなたの言う通りではあるな……ただし、何も打つ手がないわけではないぞ。召喚魔法は基本的に一方通行だが、ひょっとしたら元の世界に戻る方法が見つかるかもしれないし、その身体を人間のボディに変える手段だって無きにしもあらずだ。何しろうちには優秀なお抱え錬金術がいるのでな」
緑色っぽい石畳の上に悠然と立つ自称魔王は、俺の突っ込み連打を屁とも思っていない様子で涼しげに受け流し、耳当たりの良い言葉を並べ立てた。
【はぁ、そうですか……そうなったらとっても良いですね……それが本当であれば】
「む、その調子だと、まだ我々のことを信じてもらえないようであるな。だがその身体になったとはいえ、決して悪いことばかりではないぞ。今日からそなたには我が城で働いてもらう。召喚魔法使用時にそなたの人間体をちらっと伺った際、人間の成人男性だとお見受けしたが相違ないか?」
(確かにこちとら男盛りの25歳成人男性だけど……)
こんな姿になって一体何が出来るというのか疑念が募るばかりだったが、特に嘘をつく理由もなかったので、僕は素直に【はい】とだけ簡潔に答えた。
「やはりそうだったか! ならばこの仕事はそなたにとって夢のような希望に満ちたものとなるであろう!」
【はっ!? 何言ってんだこの人!?】
いかん、つい本音を喋ってしまった! てかさっきから僕が話すたびに魔王の後ろに控える褐色メイドさんがなんかピリついているっぽいのがちょっと怖い。粗大ゴミにでも出したいのか?
「まだわからんのか? 今の現在のそなたは一体何だ?」
【だからマンモグラフィーなんでしょ? ってまさか……!】
まるで天空の星々のように遠く離れていた点と点とが星座のように繋がり始める。つまり、この大魔王様とやらが僕に求めている働きぶりとは……
「そうだ、そなたにはこれから我が魔王軍の精鋭たちの乳房検査をしてもらう。当初の予定通りにな」
【えええええええーっ!?】
俺の頭の中で突如ピンクの桜が花開き、一気に満開となった。おっぱいおっぱい! 揉みたい!
「お待ちください、魔王様。僭越ながら、私はその案に断固反対です」
キリッという擬音が聞こえそうな鋭い目つきで、傍らのメイドさんが恭しく主人に上申する。
「ほう、それはまたどういう了見だ、ミレーナ? 遠慮なく申せ」
「はっ、無礼を承知で言わせていただきますと、このようなどこの馬の骨ともわからぬような人間……今は人間ではないようですが、そんな怪しげな存在に自分の大事な胸を触らせるのは極めて不快です。再考を願います」
「そんなに信用ならないのか、こんな何も危害を加えそうにないタンスみたいな代物が?」
魔王は僕の腹辺りを軽く拳でコツンと小突く。確かに現在何一つ抵抗出来ない僕はされるがままだった。
「全くもって信用出来ません! どんな危険物を隠し持っているものだかわかりませんし、人間なぞ畜生以下だと思われます! ご命令いただければ私がこやつを即叩き壊して海に投棄させていただきます!」
ミレーナと呼ばれた目の前のメイドさんはどんどんヒートアップし、熱を帯びた紫色の瞳で僕を睨みつけた。って本当に粗大ゴミ扱いされるのは困るんですけど!
「ふーむ、そういうことか。我はてっきりそなたがその乳が偽物であるのを見破られるのが嫌なので止めようとしているのかと思ったぞ」
「なななな何を突然おっしゃるのですか我が君!?」
突如魔王が唇の片側をわずかに持ち上げ、皮肉たっぷりの笑みを浮かべる。たちまち褐色エルフの肌は傍目にもわかるほど真っ赤に染まった。
こりゃちょっとばかり面白くなりそうだ。