第21話 追憶の彼方〜おっぱいのようなぬいぐるみって良いですね〜
【な、何だったんですか、今のは……!?】
突如竜巻が室内に飛び込んできて滅茶苦茶に荒らし回って去っていったような感覚に襲われ、僕は一気に虚脱感に包まれた。
「すまんなムネスケ、さっきも言ったが、あれは我が不肖の妹・オドメールだ。魔族なのに角が一本しかなく胸も貧弱なため魔力に乏しく、幼い頃は、王族のくせに親戚の悪ガキどもと庭で遊んでいる時にからかわれたりいじめられたりしたので、我がよくかばってやり、相手を裸にひん剥いて木の上に逆さ吊りにしてやったものだ」
【やり過ぎですよ!】
「ハハハ、まあまだ子供だったしな。あの頃は、『大きくなったらあたしがお姉様を支えるわ!』なんて可愛らしいことを喋っていたのに、いつの間にかあんなわがまま娘に育ってしまって、いやはや、姉としてお恥ずかしい限りだ」
魔王は口ではそう言いながらも、昔を懐かしむような遠い目をしている。
【傍目には今でも本当は仲良さそうに見えましたが……何故妹さんはクーデターなんか起こしたんですか?】
そう、それはこの世界に来てから心にくすぶっていた謎の一つだった。この案外人が良さそうな魔王の治世がそんなに悪いものだとはあまり思えないのだが……単なる権力や財力目当ての犯行か?
「知らん。だが、強いて言うならば、実は我が魔王軍は、数年前からノルバスク大陸の人間と亜人の連合軍と交戦中なのだが不甲斐ないことに中々決着がつかず膠着状態に陥り、そのため我の総司令官としての能力を疑問視する不届きなやからが多少いることはいた。しかし、そこまで強く退位を迫る者などは一人もいなかった」
【はぁ……】
現在戦時中だとは知らなかった僕は、いささか衝撃を受けていた。どうりでミレーナさんが人間を毛嫌いするわけだ。
「だがある朝いつも通りにベッドでぬいぐるみと一緒に起きたら」
【まだぬいぐるみと一緒に寝ているんですかあんた!?】
「うむ、スライムのぬいぐるみがお気に入りでの、あれはおっぱいのようにフカフカで寝やすいぞ。で、起きたら妹の部下たちに取り押さえられ、王位の証でもある大切な純白の宝玉をも奪われ、ついでにぬいぐるみも没収され、抵抗しようにもあの腐れサソリババアのせいで魔法も封じられ、悔しいが手も足も出ない状況となっていたのだ。カヌマのやつは魔力を遮断したり魔法を使用不能とする術が得意なので、敵に回すと非常に厄介なのだ。いやはや、面目無い。我は史上最低の魔王だったな」
そこまで話すと魔王は珍しく自嘲気味に微笑んで、目を伏せた。




