第20話 魔王来訪〜ちっぱいとたれぱいおっぱい〜 その3
「そこまで来ると被害妄想もいいところだな、オドメールよ。いくら追放の身となったとはいえ、誰が好き好んで人間風情の弱小軍ごときと手を組むものか。いいか、耳の穴かっぽじってよく聞け。我が昨晩の紅き満月の夜に行った魔法は、ここに控えしムネスケことマンモグラフィーなる乳房の疾患を検査する機械を異界より召喚するためのものだ」
魔王(元)はここぞとばかりに純白のマントを翻して芝居がかった仕草で弁舌を振るう。さすが一度は魔族の頂点を極めただけあって、その覇気に満ち満ちた声音は朗々と玉座の間いっぱいに響き渡り、舞い踊る金砂を揺るがせた。
『な、なんでそんな代物がいるのよ!?』
「最近我が軍では胸に異常がある者が散見されたため、診察する便利な道具がないか探査し、見事に異界から呼び寄せたのだ。何故かあちらの人間の魂も備わってしまったがな。だが彼の協力のおかげで、昨日は大事な部下の乳房の豊胸術を見破ることが出来た。あれは大きくなるのは良いがちょっと危険だからな。凄いぞ、こやつの実力は」
【いえいえ、それほどでも……】
急に褒め殺しに合って、つい赤面してしまいそうになった……って顔はないんだけど。
『ぐぬぬぬぬ……』
現魔王は、ほぞを嚙むような顔でこちらを睨みつけてくるが、今までの言動のせいかあまり怖くない。
「なんだ、悔しいのか、我が妹よ? この際だからついでにそなたの胸も彼に調べてもらうとするか? ここの板と板の間におっぱいをポンと乗せてちょっと挟むだけだぞ。王族のくせに何故そんなに胸が貧弱なのか、ひょっとしたら原因がわかるかもしれんぞ、カッカッカッ」
『なななななな何を言うのよこの腐れ〇〇〇姉貴は!? あんたのその無駄に大きいだけのだらしないぶよぶよ肉のクッションよりも、キュッと締まった方が最近の流行りで格好いいのよ! カヌマも黙ってないで何か言い返してやって!』
『誠に相すみませんが、わしはもうこのように垂れ切っております故……』
「【確かに】」
こちら側の魔王と僕の意見が少しのずれもなく合致する。長年の風雪を経た老婆のおっぱいは僕が挟むまでもなく既に平べったく、乾燥しきった大きめのスルメが二枚風に吹かれながら干されている港町の風景を彷彿とさせた。
『カヌマとお姉ちゃんのバカアアアアアアアア! うわああああああん!』
『ま、それじゃ、そういうことで、朝方から失礼しました。では、また……』
哀れな現魔王の泣き声と、カヌマの挨拶のみを残して2人の姿はどんどん歪んで崩れていき、再び金の砂に変わって室内に四散した。




