第19話 魔王来訪〜ちっぱいとたれぱいおっぱい〜 その2
「アポが無かったのでてっきり泥棒かなんかかと思ったよ、魔王様。そなたこそ相変わらず通話魔法が苦手のようだな。声が良く効き取れないし、耳や手の形が崩れているぞ」
途端に相手の表情から余裕が消える。確かに魔王(こっち側)がいみじくも指摘する通り、魔王(あっち側)の身体の一部がぐにゃっと変形し、暖かい場所に置いた飴細工のように歪んでいた。
『失礼しちゃうわね、ちゃんと会話出来ているからいいじゃないのよ、お姉様のバカ!』
【お、お姉様!?】
思いがけない一言に、僕は目を剥きかけ……じゃなくてレンズが飛び出しそうになった。
「ハハ、そんなことではアーガメイト大陸を無事に治めることが出来るかとても心許ないな、我が妹よ。通話魔法はそれぞれの地方の拠点と連絡を取り合うのに非常に大切だぞ。そんな抽象画みたいな格好でのこのこ現れるつもりか?」
『うるさいわね! 普段はコウモリ便とかで十分なのよ! それにこの程度の魔法よりも、もっと重要なことが上手なら言うこと無しでしょ!? わらわは魔力感知がすっごい得意なんだから!』
なんか急に泣きそうな顔になった現魔王が駄々っ子みたいに反論かましてきたので、僕はただあっけにとられるしかなかった。
『並ぶ者無き魔王オドメール様、通話魔法の継続時間もそんなにありませんので、そんな雑魚の相手はほどほどにされて、早くご用件を済まされませ。偉大なる魔王様ならば秒で終わります故に』
付き従っていたサソリババアが興奮状態の魔王をなだめ、彼女に当初の目的を思い出させた。
『そ、そうね、カヌマの言う通りだわ。昨晩、この地で途方もなく強大な魔力を感知したので、急遽今日訪れたってわけよ。お姉様、一体どんな禁呪を使用したの!? あんた幽閉された身のくせに何企んでいるのよ!? 正直に吐きなさい! 返答次第ではただじゃおかないわよ!』
部下の一言で即座に冷静さと自信を取り戻したオドメールとかいう魔王は、居丈高にどこかグニャグニャした白い指先をこちらに突きつけ、元魔王を糾弾した。
(一体何のことだ? ミレーナさんのおっぱいスライムを魔王が抑え込んだアレのことか? 魔法については詳しくないけど……)
少ない知識を駆使して行っていた僕の思索活動は、豪快な笑い声によって強制終了した。
「ハッハッハ、そんなくだらないことをわざわざ調べに来たのか? 相変わらずの早とちりのおっちょこちょいだな、そなたは!」
魔王(元)は微塵も臆する様子もなく、ひきつけを起こしたようにひたすら爆笑していた。
『だ、誰が早とちりよ! また人を馬鹿にして! ひょっとしてノルバスク軍のやつらと密かに同盟でも結ぼうと企てて、わらわを追い落として魔王に返り咲くつもりじゃないでしょうね!?』
オドメールは額に汗を浮かべながらも、姿勢を崩さず、詰問の手を緩めなかった。