第18話 魔王来訪〜ちっぱいとたれぱいおっぱい〜 その1
「さて、これまでのところで何か質問や意見がある者はいるか? いなければ解散とするが……」
魔王は今一度四天王を睥睨するも、別段誰もわざわざ挙手したり発言を求めて朝礼を長引かせようとする自傷者はおらず、会議の終了間際の弛緩した空気が場を占めていた。
「よし、解散! 各自仕事や鍛錬に励むがよい!」
上司の鶴の一声で部下たちは散り散りに玉座の間を出て、それぞれの持ち場へと去っていく。松ぼっくりはどうするのだろうと思ったら、ずりずりと床を移動し、いつの間にか消えていた。
「あー、やーっと終わった! さて、ムネスケよ。少し一緒に話さないか? そなたの世界のことなど聞きたいしな」
はしたなくも魔王がドレス姿のまま伸びをし、こちらに向き直る。まったく自由奔放な人だ。
【別にいいですけど、どんなことが知りたいんです?】
「ほれ、さっきそなたが言いかけていた、おっぱいが大きな先輩とか……」
【そ、それだけは勘弁してください!】
「えーっ、つまらんやつだなー」
魔王がごねていたその時である。
常にホコリのごとくホール内を漂っていた金の粉が前触れなく急に一箇所に集まったかと思うと、徐々に密度を高めていき、明らかに何かの形態をとろうしていた。
【ふ……2人の人物、だと!?】
なんとそこには、頭頂部に一本だけ角が生えた白銀の髪をした女性と、白髪の老婆が昔からそこにいたかのように姿を現していた。妙齢の銀髪女性はやけに紅く光る艶やかな唇と切れ上がった青い目をしており、一見コケティッシュな顔つきなのだがどことなく冷たい印象を受けた。彼女は胸は小ぶりで黒いドレスに身を包み、魔王とは対照的だった。
また、老婆の方は上半身はほぼ裸に近く、下半身の方はなんとも恐ろしいことに巨大なサソリのそれで、ニタニタと下卑た笑いを皺だらけの長い顔に刻んでいた。ただ、奇妙なことにどうしたわけか両人ともまるで陽炎のようにぼんやりと目に映り、実態感に乏しかった。
「慌てるなムネスケ、魔王様のご来訪だ。まったく来るなら来ると前もって知らせてくれても良かろうに」
【魔王様って……あなたが魔王じゃなかったんですか、魔王!?】
「なんか語彙能力がすごく低下しているぞ。だから最初に言ったであろう、我は魔王ではなく『元』魔王だと」
【えっ!? ということは……】
「そう、彼女こそが現魔王のオドメール閣下その人だ」
【うげえええええええっ!?】
青天の霹靂のごとき面会に、僕は喉を締め付けられたように呻いた。
『あーら、お久しぶりね、元魔王のエリキュースさん、ご機嫌いかが? そんなタンスの出来損ないとお話ししているなんて、相変わらずおつむの調子がおかしいのかしらん?』
出し抜けに現魔王らしき銀髪の女性が上から目線で挨拶してくる。時々音声に砂嵐のような雑音が入るのが、電波状況の悪い電話みたいだが、その厭味ったらしい声はこちらの神経を逆なでるのに充分だった。初対面で悪いけど、僕は一瞬でこいつが嫌いになった。てか皆タンスって言うな! 毎回映画で青ダヌキ呼ばわりされて切れる某国民的猫型ロボットの気持ちが良くわかるわ!