第16話 爆乳おっぱいだらけの魔王軍四天王 その3
「この目の隈は夜中ミレーナとバトルを繰り広げていた名残りだ。それよりも、そなたには問い質したいことが色々あるが、それは後ほど行おう。では次!」
相変わらず僕の困惑を置き去りにして、幹部紹介は勝手にどんどん進行していく。もうちょっと手心を加えてほしいところだ。魔王に指し示されただけで緑頭の鳥女がビクッと震えたのが、少し気がかりだが……。
「そこにいる鳥と魚の合いの子のようなのは、我が軍の情報参謀及び楽団担当の、セイレーンのリプル、18歳だ。セイレーンって知ってるか、ムネスケ?」
【は、はぁ……確か海に住んで歌声で船を呼び寄せ転覆させるって魔物でしたっけ?】
こちとら根っからのRPG世代なのでそれくらいの基礎知識は履修済みだ。でも急にこっちに振らないでほしい。
「ほう、さすが新作戦参謀なだけはあるな。ほれ、リプル、挨拶しろ。単なるタンスと思えば何も緊張することはないぞ」
「は……は……はじめ……まし……まして……」
羽根の間に顔を隠して、その鳥女だか魚女だかよくわからない女性は、まるでそよ風でも吹いたらかき消されそうなか細い声でやっとそれだけを発した。どうやら声は小さくても胸はかなり大きいようだが。なお、手の先は指では無くて鋭い鉤爪となっているようだ。なんか先っちょがちょっと汚れている気もするが。
「やれやれ、相変わらずの人見知りだな。だが驚くなかれ、我が軍には更なるつわものがいるぞ!」
【それってダメじゃないですか!】
「細かいことは気にするな! しかし前から疑問なんだが、鳥や魚におっぱいなんて必要なのか?」
中々ファンタジーの突っ込まれると辛いところを攻めてくるやつだ。だが、それに関しては以前自分も考察したことがある。何故っておっぱいが好きだから!
【それはですね、例えば鳩はそのうという場所でビジョンミルクという液体を作り口から出してヒナに与えるし、サメの一種には自分の子宮内でミルクを出し、子供たちを育てるものもいます。だから鳥や魚に母乳を出す器官が出来てもなんの不思議もないんですよ】
「ほほう、さすがはおっぱい博士だな」
魔王は僕のいい加減な嘘を混ぜた話を普通に納得してしまい、褒めてさえくれた。素直過ぎる……。
「さてお待ちかね、トリは……松ぼっくりだ!」
【やっぱりあれ幹部なの!? 斬新な飾りとかじゃなくて!?】
「だから細かいことは気にするな! ほれ、挨拶しろ挨拶!」
「……」
ただ今紹介に預かった松ぼっくりは微動だにせず、広間に割れんばかりの沈黙が訪れた。高窓からそよ風が吹き込み、室内を漂う金色の粒子が朝日を受けてキラキラと輝きながら粉雪のように舞い降りていった。
「今朝はやけに金砂が多いな。嵐が近いのかな?」
【うまいこと誤魔化さないでください! だからこの松かさオバケは何なんですか!? 意思疎通可能なんですか!?】
「まあ、そうがなり立てるな。そなただって他人のことは言えない見た目だぞ、白箱くん」
【言われてみれば確かにそうだけど……じゃなくって! 説明早よ!】
「わかったわかった。いいか、彼女はマンドレイクのモーラス、18歳だ。我が軍の兵站参謀をしている。ちなみにマンドレイクっていうのは植物系の魔物で、まあざっくり言うと動く大根みたいなものだ」
【ざっくり過ぎますよ! てかなんで大根なのに松ぼっくりなんですか!?】
「彼女は自分が会いたくない相手に対してはああやって全身からウロコを生やしてその中に閉じこもってしまうのだ。その硬度は魔王軍随一でこうなると会話も困難を極めるが、仕事はきっちりこなしてくれるので、何の問題もないぞ」
【問題ありまくりですよ!】
冴え渡る僕の突っ込みも暖簾に腕押し状態だった。