最終話 おっぱいよ永遠なれ!
あの激闘の日から一か月後、再び紅き満月が昇る夕暮れ時。
「新魔王様、ばんざーい! 新魔王様、ばんざーい!」
「ご就任おめでとうございます!」
「よくぞ憂いの魔神を倒してくださいました!」
「今宵は無礼講ガオ! 母乳パーティーだガオ! ミレーナ、どんどん持ってきてくれガオ! 腹が減って仕方がねぇぜガオ!」
「いい加減にしなさいメディット!まだ金泥病も完治してないでしょ!」
「あわわわわ……」
真・魔王城の真下の広場に集まった大勢の魔族や魔物たちは、満を持してバルコニーから姿を現した白い箱……つまりこの僕に対して盛大に拍手喝采していた(一部例外もいるが)。おめでたいのは確かだが、全くもって一種異様な光景である。
「良かったなムネスケ、皆そなたを魔王と認めてくれておるぞ。感謝感謝だ」
【はぁ……でも本当に、僕なんかがなっちゃってもいいんですかね?】
僕は自分の背後にデンと構える魔王ことエリキュースに向かって小声で囁く。さすがに大観衆に聞こえるのはまずい。
「くどいぞ、それについては何度も話し合ったであろう。実際魔神を倒したのはそなたの手柄であるわけだし、別に王家の血筋でない者が王位に就いてはいけないなどというルールはどこにも書かれていない。そなたは胸を張って王冠をかぶればよいのだ」
【僕が上に王冠載っけても、せいぜい台座くらいにしか見えませんよ!】
僕はアームに引っかけられた金鎖をジャラジャラ言わせながら文句を垂れた。ちなみに鎖の先にはこの前造られたばかりの白乳石のイミテーションがぶら下がっている。魔王である証として、メディットが用意してくれたのだ。
「ハッハッハッ、確かにそうだな。相変わらず冴えた突込みじゃないか。ま、そなたがめでたく人間となった暁に我と結婚すれば、子供は確実に魔族の王家の血を引くし、何の問題もないわけだ。どうだ、中々良いアイデアであろう!」
【はぁ……確かにそうですね】
僕は気恥ずかしさを隠しながら、右隣の、新たに魔王補佐に就任したエリキュースに視線を送る。ちなみに魔王補佐はもう一人いる。僕の左隣にサソリババアと共に控えている、前魔王ことオドメールだ。この両名が両サイドにいるってのは珍しい構図だが、権威付けとしてこれ以上のものはないだろう。
「さ、早く挨拶を済ませてしまえ。皆食事を前にしてうずうずしているしな」
【なんかもうすでに始めちゃっているところもあるようですが……しかし一体何をしゃべったらいいものやら……はぁ】
僕は改めて眼下の大群衆を眺め渡しながら嘆息する。スピーチについてあれこれ考えてきたが、結局まともなものは何一つ思いつかなかったのだ。だって魔王になるなんて想定外だったから!
「話すネタなどいくらでもあろう。四天王の欠員募集も必要であるし、人間や亜人どもとの和平協定もそろそろであろう?」
【和平協定っていつの間に進んでいたんですか!? 初耳ですよ!】
「なんだ、知らなかったのか? なぁに、いざとなったらまた一発芸の思い出でも語ればよかろう」
【その黒歴史蒸し返すのやめて!】
バルコニーで延々と無駄話をしつつも、僕は自分の身体が徐々に熱くなり、とある欲求が金属ボディを突き破って噴出しそうになるのを感じ、全身のメッキが剥げ落ちそうになるほどの衝撃を受けた。そういえば最近就任準備で忙しくてご無沙汰だったが、これは……非常にまずいそ!
【す、すみませんが、トイレに行きたくなったので、一時退席させてください!】
「トイレだぁ? そんなもの行ったことないであろう? バカ言ってないでさっさと……」
【うるせえそんなことよりとっととおっぱいを揉ませろおおおおおおお!】
夕焼けと紅月にダブルで真っ赤に染められた僕は、アクリル板を最高速度でカパカパさせながらエリキュースに公衆の面前で襲い掛かった。
完
今までご愛読ありがとうございました!おっぱいおっぱい!