第143話 おっぱい大覚醒! その11
『幸い時間だけはいくらでもありましたから、これだけの絵図を描くことが出来ました。もっとも運任せの要素も多かったですが、他にもいろいろ策は用意してありましたからね。というわけで、お名残り惜しいですが、皆様とはこれでお別れです』
「こ、殺すつもりですか!?」
ミレーナが、最後のあがきとばかりに顔をキッと上げる。
『いえ、そんな残酷なことは致しません。私は慈悲深き憂鬱の魔神です。我が力によって、万人は自ら憂いの多い現世を捨て、速やかに魂の旅に出立されることでしょう。また、金泥病はこれから加速度的に広まるでしょうから、どちらにせよ早晩皆金色の粒子へと還り天へと召されるでしょう』
「ああああああ……」
リプルのか細い声が恐怖に満ちている。僕は目の前の魔神が何故に恐れられたのかという伝説を強制的に思い出した。場の空気に濃密な死の味が混入していく。こいつは一刻の猶予も無い!
【わかった、そこまで言うならもうどうしようも無い。腹をくくるよ。だから最後に一つだけ僕の頼みを聞いてくれ、オレンシアさん!】
僕は一世一代の勇気と演技力を振り絞って、告白するかのごとく魔神に申し出た。
『名前を呼ばれたのは数世紀ぶりですね……いいですよ、聞きましょう』
魔神は弓なりに目を細めながら承諾してくれた。どうやら第一関門は突破のようだ。ここからは少しのミスも許されない。
【お願いします、一度でいいからその素敵なおっぱいを思う存分揉ませてください!】
僕は自ら火中の栗を拾う覚悟で、禁断の文言を大音量で発した。
『……』
まるで時間が止まったかのごとく室内が静まり返り、しわぶき一つしない。水を打ったような静寂の中、「やらかしたな、あいつ」というギャラリーどもの視線が痛いほど僕の金属製のボディに突き刺さった。おかげで僕の希死念慮はマックスまで跳ね上がったが、ここで引くわけにはいかないという使命感で気力を取り戻し、ただひたすら返事を待った。揉むや揉まざるや? 魔神の目が怖い!
『……何故ですか?』
たった一言だけの返答。だがそれは地獄の底に垂れ下がる蜘蛛の糸にも似た、一筋の光明だった。
【だって、その身体の持ち主の魔王と約束したんです! 首尾よく宝玉を取り戻せたら、もう一度胸を揉ませてやるって! 僕はまだ、履行してもらっていない! このままじゃ死んでも死に切れません!】
『なるほど、一理ありますね』
なんと、ダメもとだったのに、魔神の心がOK側に傾いてきた! やりい! 何でも言ってみるもんだね!