第139話 おっぱい大覚醒! その7
もはや室内の熱気は深夜とは思えぬほど最高潮に達し、空気に引火しそうなほどだった。四天王の覇気に押され、僕は部屋の隅で行く末をただ見守るしかなかった。
「古代妖精流秘奥義・紅月演舞脚! キエエエエエエーッ!」
ミレーナがメイド服も裂けよとばかりに全身の筋肉を膨張させて吠えると、スタートのピストルもなしに突然四足獣のポーズで突進を開始した。それを皮切りに他の二名も後に続く。
「破壊技・飢えたるスフィンクスのあぎと!」
メディットが天に拳を突きあげると、オーラのごとく上空を覆っていた幻獣が彼女に吸い込まれていき、金髪がひと際輝いた。そして彼女は猛獣のような唸り声をあげると獅子のごとく魔王に向かって襲い掛かる。
「コオオオオオオオオオ! ゴンズイ・ニードル!」
リプルはといえば怪鳥音と共に例のゴンズイ針を無数に打ち出し、おまけとばかりに冷水と突風で追い打ちをかける。前回魔王を苦しめたトリプルコンボ技だ。
だが魔王はそんな三者を前にしても石仏のごとく泰然自若としており、その不動の姿からは余裕が滲み出ていた。彼女は猿叫を上げながら突撃してくるミニスカメイドが空中で一回転してその長い褐色の美脚を駆使したかかと落としを繰り出してきても、眉一つ動かさずに右手の人差し指で軽く触れるのみだった。しかしたったそれだけの動作で薬丸自顕流の志士さながらの必殺の一撃は食い止められ、ミレーナは映像を巻き戻したかのように逆回転で吹っ飛んでいき、ファンシーな壁紙に叩きつけられた。
時間差を置いて躍り掛かるメディットも魔王が銀髪を優雅に揺すっただけで、弾かれたように天井に飛ばされ、豪華なシャンデリアを打ち砕くと、諸共に落下した。
リプルの自慢の毒針は近ずくことすら許されず、パラパラと床にこぼれ落ち、恐れおののくセイレーンはあろうことかその場で泡を吹いて気絶した。つまりは全滅である。
『無駄な努力です、皆様。紅き月光が気まぐれに生み出した仮初めの創造物に過ぎないあなた方は、創造主たる私に指一本触れることさえかないません……』
無様に床に倒れ臥す四天王を憐憫の眼差しで見つめながら、魔王が久々に口を開いたが、その喋り方は様変わりし、まるで別人のようだった。しかしどこかで聞いたような気が……。