第139話 おっぱい大覚醒! その5
「フオオオオーッ! イッくうううううう!」
魔王があたかもオーガスムに初めて達したかのようなイキ声をぶっ放したかと思うと、凄まじい圧が室内を席巻し、彼女の長い銀髪が踊り狂う連獅子の髪の毛のように渦巻き、天を突いた。心なしかおっぱいまで一段と増量している気がする。魔王は両手に宝玉を挟んでがっちり組むと、何か聞きなれぬ言葉を唱え始めた。慌てた猫娘四姉妹はまるで蜘蛛の子を散らすように魔王から離れると、即座に部屋から姿を消した。
「な、なんて凄まじい魔力……こんなのって……!」
オドメールの顔色が一気に蒼白になり、寒くてたまらないかのようにガクガクと震えだした。確かに今まで魔力なんぞ欠片も感じたことのない僕でさえ、目に見えないオーラらしきものが魔王の周辺を覆っているのが肌でわかるほどの異変だ。
「カヌマ! お姉様を止めて!」
「ハッ!」
現魔王の忠実な下僕たる老婆が印を組み何やら素早くモゴモゴつぶやくと、合わせた指先がまばゆく輝いて、例の光線が射出されるが……
「な、何いいいいい!?」
カヌマは驚きのあまり印を解き、サソリの尻尾をピンと立てる。光の筋は先ほどの海上の時のように魔王に突き刺さるかと思いきや、寸前で空気に溶ける朝もやのごとくし雲散霧消してしまった。
「力が違い過ぎる……わしには最早手に負えませぬ!申し訳ない……」
カヌマの落ち込む姿を見るのは胸がすく思いだったが、どうやら魔王の様子がおかしい。ひたすら宙を見つめており、人形のように表情が抜け落ちている。胸を不安がよぎる。
「お姉様! 目を覚まして!」
オドメールが必死に呼びかけるも、全く気づく素振りも見せず、上の空だ。
「恐れていた通りになった……お姉様は乗っ取られてしまったわ……」
オドメールが力なくつぶやくと、炎天下の花のようにうなだれる。いよいよ僕は気が気でなくなり、意を決して尋ねた。
【一体魔王はどうしてしまったのですか?】
「……あんたに言っても無駄よ。もうどうしようもないわ」
【いえ、僕は身体は機械でも魂は異世界の医者です。ひょっとしたら彼女を救えるかもしれない】
「へぇ……」
この世の終わりが来たかのように闇に染まっていた彼女の瞳に、好奇心の光が宿る。少しは心が動いた証拠だ。
「いいわ……教えてあげる」
現魔王はゆっくりと顔を上げると、睨みつけるように僕を真正面から見つめた。