第132話 おっぱいサキュバスママンは夢に中々出ない!
その光景を最後に水晶球に映る像がかすみ、マーブル模様と化したかと思うと、全ての光を失って元の単なる透明な宝石に戻った。
「チッ、ボクの偵察魔法があの腐れサソリババアに打ち消されたガオ!」
白いドレスに身を包み、廊下で水晶球を両手に持って皆に見せていたメディットが汚く舌打ちをし、ポトリと手から取り落とした。
「ど、どうして映像が途絶えたのでしょうか? 魔王様は一体どうなったのですか?」
ミレーナがあわてて水晶球を拾い上げると、穴が空くほど覗き込む。
「そんなことしても無駄だガオ。これはボクが密かに魔王様の動向を探るため、彼女の周囲に飛ばしていた薄い金泥の雲を通して状況を逐一教えてくれる魔法だけど、カヌマに気づかれてさっきの巨大おっぱいサキュバス同様分解されてしまったガオ」
「ででででも、このままじゃ魔王様が……!」
「確かに、もうすでに敵の手に落ちてしまった可能性が高いです。両作戦参謀よ、今後一体どう対処するおつもりですか?」
何も映らない水晶球をあきらめて足元に置くと、ミレーナが真剣な顔つきで僕とメディットを等分に見つめた。とはいえ現況何一つ策がない僕は、沈黙をもって答えとするのみだ。
「大丈夫ガオ! まだまだ取り返すチャンスはあるガオ。ボクたちも今からあっちの城に乗り込むガオ!」
【「「どどどどどうやって!?」」】
自信たっぷりにメディットが言い放つとんでもない作戦を耳にして、皆がリプルのように反応する。
「ボクに任せるガオ! とりあえず大至急謁見の間に向かうガオ!」
※ ※ ※
「うわわわ、すすすごい有様ですね……」
リプルがとても嫌そうな顔で扉の中へと足を踏み入れる。確かに謁見の間はモーラスとの戦いの痕跡がまざまざと刻まれたままになっており、随分とひどいものだった。観葉植物の植わっていた大きな壺は全て割れ、石畳は所々めくれ上がり、階段の上の玉座に至っては瓦礫の山と化していた。つまり目も当てられない惨状である。
【こ、こんなに……でも、確か補強魔法がかかっていたんじゃ……?】
「あれはあまりにも強烈な衝撃は無効化出来ません。ここはあなたが無様に引きこもっている間、一ヶ月間ずっと封鎖されていたんですよ。お陰で朝礼をする場所探しに難渋しました」
【はあ、そうでしたか……足の踏み場もないとはこのことですね】
僕の頭を掴んで移動させてくれているミレーナが親切にも教えてくれたので、僕は何で掃除しないんだよメイド長とか突っ込みたかったけれど、なるべくそつなく答えるにとどまった。