第131話 おっぱいサキュバスママン降臨!
朱塗りの盆のような丸い月が絶え間なく紅い魔光を注ぎ込む金泥散らばる鏡の海の上を、銀髪の乙女が純白のマントをなびかせて、海鳥よりも早く疾駆していた。言わずと知れた魔王である。
「反逆者を止めろ!」
「逆賊を討て!」
所々に浮かんでいる船から雄叫びが上がり、空飛ぶ石の魔獣・ガーゴイルの群れが行く手を阻むも、彼女の発する突風呪文を食らって次々に木の葉のごとく吹き飛ばされていく。あたかも無人の野を行くがごとしだった。
「フン、たかがこの程度で我を止められるはずがなかろう。しかしこれだけの伏兵が要るということは、情報が漏れていたのか?いやいや、偶然だろう」
快進撃を続けている魔王は戦闘中でも笑みを絶やさなかったが、嫌な考えを振り払うように首をブンブンすると、また前に向き直った。目指す相手の城はもう目の前まで近づいている。このままのスピードだと、もう後数分でたどり着けるだろう。その時である。
「ブロオオオオオオオッ!」
突如、小山のごとき巨大な軟体類の頭部が停泊中の船のそばから海面を割って姿を現し、耳障りな鳴き声を発しながら大木のように長くて太い触手を魔王目がけて振り下ろしてきた。海の魔物・クラーケンだ。
「ほう、こんなものまで用意していたのか。やけに準備が良いのう。だが我を倒すには百年早いわ!」
触手を軽やかにかわしつつ魔王が呪文を詠唱すると、なんと周辺の金泥がたちどころに空中に集まり、大きな人型を形成していく。数秒後にその場に現れたのは、 黒い角と翼をもち、扇情的な漆黒の下着を爆乳の上に身に付けた、妖艶な美女であった……ただし、巨人の。彼女はクラーケンをまるでペットか何かのように優しく撫でまわし、あまつさえ口づけまでする。刹那、タコとイカの合いの子に似た怪物は水気を失い見る見るうちに干からびていき、まさに特大のスルメのように変化したかと思うと水没した。
「どうだ、我の造り出したマザー・サキュバスの味は? 魔物だろうがなんだろうが彼女のエナジードレインにかかればいちころよ!」
豪語する魔王が更に突き進んだ時である。対岸の砂浜からいかづちにも似た光線が飛び、魔王の背後の淫魔に命中した。直後、マザー・サキュバスは恍惚とした表情のまま輪郭を無くし、金泥となって四散した。
「なっ、まさかカヌマの魔法封じか!?」
「正解ですじゃ、元魔王よ」
波打ち際の人影が返事をすると共に凄まじい速度で何かを唱えると指先から再びレーザービームを放出し、ホバリング中の魔王を穿つ。
「うがああああっ!」
絶叫しながら魔王は糸の切れた凧のようにクルクル回りながら眼下の海へと落下していった。
「ヒャッヒャッヒャッ、情けないですのう……ムッ!?」
と、その人物は何かに気付いた様子で魔王の周囲に浮かぶとあるものに向かって再び光の矢を放った。