第122話 暴かれたおっぱい その4
【しまった、スフィンクスの翼か!】
僕は死の天使のごとく変貌を遂げたメディットに驚嘆しつつ、何も出来ない無力な自分を呪った。だが、自由を得た彼女はこちらに襲い掛かってくるかと思いきや、なんとくるりと反転し、そのまま廊下を滑るように飛び去っていく。なんという思い切りの良さ!
「待ちなさい! 勝負するんじゃなかったんですか、この母乳マニアのド畜生め!」
罵声と共にクルクルと白く長い何かが宙を舞い、狙い過たずメディットの白鳥のように優雅な羽根の根元に絡みつく。当然彼女は飛翔能力を失い床に激突した。南無。
「ゲフュッ! 何すんだガオ!」
「単に返却しただけですよ、あなたの下劣な下着を」
早くもメディットに追いついたミニスカメイドが、さっきのお返しとばかりにパンツが見えないギリギリのラインのローキックをひれ伏したメディットの背中に叩き込み、そのまま踏みつける。
「グゲェッ! 下着ガオ……?」
「ええ、さっき剥いだあなたのブラジャーを、投げ紐代わりに使わせていただきました」
「自分の使えガオ! 伸びるガオ!」
「そんなことよりも、四天王の身でありながら、いくら死病に侵されたとはいえ、大恩ある偉大な魔王様のお命を狙うとは、許し難いにもほどがあります。覚悟は出来ているんでしょうね?」
かつてなく殺気のこもった鋭い刃物のような声が、頭上からメディット目がけて降り注ぐ。
「仕方なかったんだガオ! 確かに魔王様には悪いとは思ったけれど、もうそれしかボクの生き延びる道はなかったんだガオ! 金泥病の唯一の薬であるミミックスライムの搾り汁も病の進行を遅くするだけで止めるには至らなかったし、どんどん身体が崩れていくと治療の研究すら出来なくなるし、つい焦ってしまったんだガオ!」
【ああ、それでミミックスライムを持ち歩いていたんですか……】
僕は彼女の修練場で使った耳栓を思い出した。
「だから、こんなところで捕まっているわけにはいかないんだガオ!」
四天王(仏像の方ね)の足元にうずくまる邪鬼のごとく足蹴にされているメディットの雰囲気が、急に追いつめられた獣のそれに変わる。慄然とした僕は、【すぐに耳をふさいで!】と大声を出すも、いま一歩遅かった。エルフ耳はこういう時不利だ。