第119話 暴かれたおっぱい その1
『君は物事の見た目よりも本質に気づくべきだな』
遠い春の日、高校の講堂前で咲き誇る桜を腐しながら能登川先輩が厳然と僕に告げた言葉が、今、鮮やかによみがえる。僕はずっとこの親切な金髪美人の相棒の表面しか見てきていなかったのだ。
【まず、僕に複製体であることを教えたのはあなたです。それによって魔王が責任を感じてこのような行動に出ることを予測していたのです。当然とっくに相手方に魔法か何かで夜襲を通達済みなのでしょう。周囲に金泥が舞ってますよ】
「あ、あれはワザとじゃないガオ! それについさっきまで魔法の研究をしていたから、金泥がまとわりついているだけガオ! それにスパイはボクじゃなくてモーラスだったガオ!」
敵もさる者で一歩も引く構えを見せない。ただしこの程度の反論は想定内だ。
【だからモーラスはあなたの指図で動いていただけだったんですよ。彼女は恩義がある相手のために魔王を倒すと漏らしていました。あなたのことだったんですね、メディットさん。そもそも彼女を魔王軍に推薦したのはあなたです】
「言いがかりだガオ! これまた根拠レスガオ! 第一スパイがこの城内にいることを言い出したのはボク自身だガオ!」
【あのレミッチの子作りの晩、あなたに言われて後ろに下がった僕は、偶然モーラスとカヌマの魔法での通信現場を目撃しました。しかし今思えばあれは偶然ではなくてあなたが仕組んでいたんですね。あれが見えるポジションは僕の位置からだけでしたし、ああやって自分に疑いがかかるのを防いでいたのです。どうせ早晩スパイが潜入して情報を相手に流していることはバレるだろうし、だったら自分からその存在を知らしめ、モーラスを囮に使ったというところでしょうね。そしてあなたはひどいことにモーラスを使ってあわよくば魔王と僕を亡き者にしようと企んだのです】
何故あんな人目につきやすい場所でわざわざ密会していたのかずっと疑問だったが、いろんなパーツを組み合わせることで僕は真実にたどり着けた。あれは罠だったのだ。僕はカメラアイを光らせ、二度と騙されまいと彼女を睨みつけた。