第118話 さよならおっぱい その11
「そ、そんな馬鹿な……って言い切れないところが確かにありますね。わかりました。あなたの指示に従いましょう!」
「あああああたしもにわかには信じ難いけど白箱さんなら間違いないと思います! すすすすぐに行ってきます!」
【ありがとうございますお二人とも! ではお願いしますリプルさん! 事は急を要します!】
「はいっ!」
勇気の歌も奏でてないのにはっきりと答えると、彼女はシャチ枕を小脇に抱えたまま、弓から放たれた一本の矢のように夜の廊下を突き進んでいき、たちまち見えなくなった。
「で、私たちはどうするのです? ここで彼女を待ちますか?」
【今のところはそれしかなさそうですね。迷子になられても困りますし……それにしてもすごい月ですね】
圧を感じるほどの凄まじい満月を窓際に並んで鑑賞しているうちに、廊下をドタバタ走る音と共に、「おーい、探したガオ! こんなところにいたガオ!」という甲高い声が聞こえてきた。金髪を後ろでまとめ、白いドレスをまとったメディットが、こちらに息せき切ってやってくる。周りにちらつく金泥が後ろにたなびいているように見えた。
「メディットさん! ちょうどいいところに! 大変なんです!」
「こんな夜更けに雁首そろえて何事ガオ!? 白箱くんはいつから復活したんだガオ!? それにさっきの大声はなんだったんだガオ?」
「実は魔王様が魔王城本城へ一人で強襲なされました。詳しくは作戦参謀の白箱からお聞きください」
「えっ、レイドバトルってどういうことだってばガオ……って、あいたたたたたたっ! 何すんだガオミレーナ!?」
僕の方に向き直った途端、背後からミレーナに黒手袋に包まれた両腕をガッチリ掴まれたため、メディットは抗議の声を上げた。
【見苦しいですよ、メディットさん。もう腹の裏の探り合いはやめましょう。今回の絵図を描いたのは、あなたですよね?】
「い、いきなり何を言い出すガオ、白箱くん!? 何でボクがそんなことをするガオ!? 根拠でもあるのかガオ!?」
【やれやれ、やはり白日の下に全てを明らかにせねばなりませんか……紅い月夜ですが】
僕は目を白黒させているメディットに冷淡に告げる。ここで慌てているふりをしている魔王軍四天王の作戦参謀たる彼女こそが元凶だったとは、今まで信じたくなかった。だが事ここに至っては放置しているわけにもいかない。僕がミレーナに与えた策とは、まずメディットを速やかに拘束することだった。