第114話 さよならおっぱい その7
「如何にすべきか頭を絞ってとことん考えたが、なにぶん昔から思い詰めるのは苦手でな、すぐ行動の方に移ってしまう。よって我はグダグダ悩まず、以前から計画していたとあることを意を決して実行することとした。それはそなたを人間に戻してやることであり、すなわち我の真の玉座を取り返すことに他ならぬ!」
【……!】
話の展開が急過ぎて、ついていけなくなった僕は、目じゃなくてレンズを丸くして至近距離の魔王を凝視した。
「おっと、説明不足だったな、すまんすまん。つまり我があのアホ妹のオドメールより首尾良く王位を奪還すると、特典としてもれなく王権の証である白き宝玉もついてくる、という寸法だ。アレを身につければ魔力がほぼ天井知らずとなってジャンジャンバリバリ強力な魔法がいくらでも使い放題となる。そうなればそなたの姿を永続的に変化させる古代の大魔法も使用可能となるわけだ。これがそなたに報いる唯一無二の道だ」
【……!】
心の中で警鐘が鳴る。僕は何かを言わなければと躍起になるも、今まで人と会話しなかった期間が長かったためか、話すことに関する部分が錆びついたようにまともに機能せず、身震いしただけで結果徒労に終わった。
「どうしたムネスケ、我のことを心配してくれるのか? ハハハ、腐っても我は元魔王だぞ。何も案ずることはない。我は敵の城のことは熟知し過ぎるほど知っているし、闇夜に乗じて潜入すれば、十分可能だ。妹の寝室にこっそり忍び込み、枕元の家宝を取り戻すだけで、我に敵う者などこの世界に何人たりとも存在しなくなるのだから! 今こそ実行の時! 勝利は我にあり!」
魔王の鼓動が一段と高鳴り、今や早鐘のようで身体を突き破りそうな勢いだ。彼女も明らかに緊張している。その不安を押し隠し、気丈に振る舞っているのが、彼女の柔肌を通して僕にはよくわかった。こんな自信たっぷりな芝居がかった台詞を吐き出して豪語しているのも、きっと魔王自身に言い聞かせるためなのだろう。
【……!】
「ムネスケよ、無理に物を言わずとも良い。これはいずれは避けて通れぬ道だったのだ。我ら姉妹は決着をつけ、雌雄を決っせねばならなかったのだ。そのための修練の日々でもあったのだから。簒奪者のあやつに目に物見せてくれん!」
魔王の自らを鼓舞する声が、物置き部屋の中で戦勝祈願の雄叫びのように木霊した。