第108話 さよならおっぱい その1
「ご、ごめんなさいガオ……つい……」
メディットが平謝りに謝るも、そんなことよりもはっきりと意識が戻った僕は、さっきの彼女の爆弾発言のせいで、頭の中が完全に真っ白になっていた。このマンモグラフィーと一体化した僕が、地球の僕の複製体だって!?何をバカな、と笑い飛ばすことが出来れば良かったけど、何故か身体がそれを拒んだ。この世界の成り立ちを知った今となっては、複製云々に関しては一笑に付しがたい点があった。
まず、こちらの世界においては、生命体は全て金泥と呼ばれる例の砂と何らかの関りを持つ。生命の起源が金泥であったし、子供を作る時も金泥を介する。そして僕が召喚された時も、周囲に金泥が埃のように舞い散っていた。確かに時々城の中で金泥を見かけることはあるが、その量には濃淡があり、特にあの夜は今思えば相当なものだった。
更に気になる事実として、僕がおっぱい揉み揉み禁断症状が出て暴走した時のことだ。けっこううつろな記憶だが、今回のように魔王とメディットの会話中に、一か所やけにただならぬ部分があった。えっと、あれは確か……
『ところでメディットよ、ムネスケには例の件は何も喋っていないだろうな?』
『もちろん言うわけないガオ! 万が一あんなこと知ったら……』
詳しい所はあやふやだが、こんな感じだったと思う。あの時は理性がお空の彼方に飛び去っていたため聞き返せなかったが、今になってみると、例の件とはこのことではないかと推測される。僕は意を決した。
【そ……その話は本当なんですか?】
僕は魔王とメディットとの間に落ちた沈黙を破って発言し、目を開けて一気に現世に浮上した。どうやらまだ謁見の間にいるようだが、いつの間にか日が落ちて、辺りはすっかり暗くなっている。どれだけ寝ていたんだろう?
「ムネスケ、気がついたのか!? ずっと心配していたんだぞ! 水中から引き上げるのにとっても苦労したしな!」
「し、白箱くん、起きたんだガオ!? 良かったガオ!」
2人が僕の無事を喜ぶも、その程度ではもはや誤魔化されなかった。今こそ、禁断の真実の扉を開ける時だ。
【そんなことよりもちゃんと答えてください! ここにいる僕は本物ではなく、地球の僕の写し身に過ぎないんですか!?】
悲鳴にも似た僕の叫びは、最後は掠れて震え、涙声のようになっていた。