第107話 秘技・ドロップおっぱいテスト!
「どうだメディット、ムネスケのやつはまだ起きそうにないか?」
「うーん、それが覚醒状態だかどうだか、はっきり言って生きているのかどうかすらわからないんだガオ、魔王様。とにかく何回声をかけても、小突いても、くすぐっても、地下の氷室から持ってきた氷を当てても何の反応もないんだガオ。っていうか元から表情が読めないガオ!」
「うーむ、顔がないっていうのはこういう場合非常に不便だな。彼の教えてくれたドロップハンドテストとやらを実践しようにも、そもそも腕がないしな」
「腕くらいじゃこの邪悪な白箱くんなら眠ったふりして避けずにごまかすガオ! いっそ彼の大好きな大きなおっぱいを二つ三つほど落としてやればいいんだガオ!」
「それどっちにしろ絶対避けないだろ! 却下!」
「えーっ、せっかく考えたんだガオ! ドロップおっぱいテスト!」
「うるさいだまれ。さてはて、弱ったものだ……」
遠い遠い遥か彼方から、どこかで聞いたことのあるような2人の女性の声が、なんだかコントみたいな掛け合いをしているのが響いてくる。僕も思わず混ざりたくなってくるほどだったが、どうも意識が真綿に包まれているように曖昧模糊として、気だるさに全身が支配され、結局何一つ発語できなかった。世界はモノクローム調で、まるで墨絵の中にいるようだった。
「なーに、もし白箱くんが既に亡くなっていたとしても、別に困ることは何もないガオ、魔王様」
突如不穏な発言をメディットと呼ばれた女性がぶちかましてきたため、僕の心の中の最も柔らかい一部がピクッと反応した。続きを聞きたいような、逆に耳を塞ぎたいような複雑な感情が押し寄せてきて、神経ネットワークの網目を駆け抜けていく。この感覚って、ついさっきもあったような……?
「メディット、それ以上……」
「何故って、ここにいる白箱くんは、あちらの世界の本体の複製体に過ぎないから、いざとなったらまた召喚すればいいだけのことだガオ!」
「メディット!!!」
もう一人の女性、すなわち魔王が、今まで経験したことの無いほどの大音声で部下の名を呼ぶ。僕の世界に急激に色彩がついていく。
「たとえ口が裂けても、たとえ相手に意識が無くとも、そのようなことを彼の側で決して言うでない! 万が一聞こえていたら何とする!?」
メディットのうっかり漏らした恐るべき情報のせいで、魔王が万丈の気炎を吐いて、憤怒の声を張り上げて大気を揺らす。それはまさに魔王と呼ぶにふさわしかった。