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見上げる月夜の照らす者  作者: 八つの蜜
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番外編 過去を思ひて

私は死にたかったのかもしれない


私は弟と双子として命をもらった。両親は巳津家と呼ばれる家でその家は十二支のへびの能力を受け継いできたようだ。能力者は私の父。双子が産まれた事で“忌み子”なんて呼ばれもしたがそれでも幸せだったあの日までは…


小さい時に親が目を話した隙にベットから落ちて一度、死んだ。でも生き返ったのだ。医者の蘇生などではなくごく自然でそれが当たり前のように治癒したのだ。その日から親の私を見る目が変わった。

母は忌み子なんて産むんじゃなかったと、私を別の生物のように接した。父は見る目を変えた。父は医者だった。死なない私はいい研究対象だったのだろう。私は色々な実験を体に施された。それと同時にさまざまな“死”を経験した。


感電死、中毒死、溺死、焼死、出血死、窒息死…etc.


娯楽なんて何ひとつなく、地下の冷たいコンクリートの壁が私の世界だった。

その世界に一つの光が宿った。私の弟だ。弟は普通の人間だった。母の目を盗んではこの何もない地下に入り私に外の世界のことを話す。それだけで私の世界は潤った。

でも、ここに来ていたことが父に見つかり叱られる。そんな事が何回もあった。何回かのやりとりの中、父が弟に手をあげた。私の目の前で。弟は倒れ頭から血を流し動かなくなる。

体の内側から込み上げてくる感情に初めて気づく。これは“怒り”。

その直後、父ですら成し遂げられなかった能力者の最終奥義をいとも容易く成就させた。


“臨界解放・「諏訪之扇巳すわのせんみ」”


父は死の間際、喜んだ。



「巳津さん?」


「ん、どうかしたか?」


「眠っていたみたいなので、お疲れですか?」


「そうかもね。少しだけ部屋の片付けを手伝ってくれるかい?」


来客(凪)が来ているのに眠るなんてね、しかもあの時の夢なんて…


「ただいま戻りました先生!」


部屋の片付けを凪に手伝ってもらっていると買い出しからアラクネーが戻ってきた。あの日、ぬらりひょんの呪縛から解放したら妙に懐かれた。まあ人手不足だったから住み込みでキビキビ働いてもらっている。


「凪さんいらしていたんですね」


「アラクネーさんお邪魔してます」


「それよりもアラクネー例の物は?」


「買ってきましたよ!」


「なら珈琲でも入れようかな。凪も休憩にしよう」


アラクネーに頼んだものは町でケーキ屋を営んでいる寅尾屋のケーキだ。


「それは何ですか?」


「ん、これかい?まさか…これを知らない?これはこの町限定!寅尾屋の抹茶シフォンだよ!!まさか…食べた事が無い…?」


「は、はい…」


(ぐいぐいくるな…近いし)


「一度くらい食べた方がいいよ」


そうか、こんな何にもない日常が欲しかったのかもしれない。そのために歩いて、歩いて…

気づかせてくれた夢に感謝なのかもしれないね。


「うん、悪くないね…」あちッ


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