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第百九十三話 魂拾い

白髪の少年が地面に伏す。生体活動の一切を停止しており、起き上がる様子もない。近くにいた3人はそれを確認して、少しほっとした様子だ。


「さすがの彼でもこれを凌ぐことはできませんよね。」


リリアンがそう呟く。安心した様子でもあり、すこし申し訳なさそうにも感じる。アリオンもそうであるが、子供の同窓を討ち取ったのだ。無理はない。


「待って、何かがおかしい。」


そう言ったのは、呪術師だ。彼はラーザが倒れているところを指さす。そこには黒や白の破片、つまりラーザの魂の残骸が散らばっている。


「どうした?」


「普通、魂の残骸はすぐにこの世界に拡散されていくから、残らないはずだよ。でもそこには残り続けてる。まだ何かあるかもしれない。」


アリオンとリリアンはそこで少し身構える。その時だった。


「うん、流石。魂のことをよくわかってる。」


空中から鈴を転がしたような声が響いてきた。3人が空を向くと、そこには純白の少女が浮かんでいた。


「神級怨霊、溺結…僕たちを始末しに来たの?」


その言葉を聞いて、溺結はクスッと笑い、そしてラーザの前まで下りてきた。


「そうしてもよかったんだけど。ラーザには誰も殺してはいけないって言われてるから。」


溺結は3人に見向きもせず、ラーザの魂の破片を拾い集める。恐らく魂が残留しているのは彼女の力によるものだ。


「それを集めてどうするつもりだい?そんなにバラバラだと修復も出来ないでしょ。魂の構造を完全に理解しているのなら話は別だけど。」


それは絶対にありえない。それくらいこの世にいる誰もが理解している。これまで何人もの研究者がそれを試みたが、誰もが失敗に終わった。魂を扱う怨霊であってもそれは変わらない。


「そうだね。わたしも魂の構造を完全には理解していない。でもこれをすることに意味がある。」


溺結は集め続ける。小さな破片すらも逃さないように慎重に。その姿は無防備そのものだ。今であれば、神級怨霊をこの世界から消せる、そう考えるのは自然のことで、それを実行するだけの自信がアリオンにはあった。


「…っ、アリオン!」


リリアンが気が付き、そう呼んだ時にはアリオンはすでに溺結のすぐ近くまで迫っていた。恐ろしい速さ。それを【スクリーン】で見ていた誰もが、斬った、と思った。


「できれば手荒な真似はしたくないんだよね。」


アスカロンが溺結の背中に食い込む直前で、アリオンの体は空中で不自然に静止する。


「アスカロンが…止められた?不可能だ、そんなこと。だってアスカロンは全てを切り裂く聖剣。それは魔法や呪いでも例外じゃない。」


呪術師の少年がありあえないものを見たという顔でそう呟く。彼の眼には無数の糸がアスカロンに絡みついてその動きを止めているように見えているのだ。


「確かに。並みの呪いじゃこの剣は止められないだろうね。実際、ラーザの炎も斬られてたし。」


溺結はすまし顔で拾い続ける。ラーザの体を起こし、その下にある欠片も拾っていく。


「でも、あなたの剣じゃ、私を斬ることはできない。神級怨霊はの高みはそんなに簡単に手の届くものじゃないんだよ。」


そう言って空中で静止したままのアリオンの方を向く溺結。すべての欠片を集め終えたのだろう。地面にはもう転がっていない。


「あなたじゃ私を、どうすることもできない。」


溺結はアリオンの目の前で指を鳴らす。アリオンはその衝撃なのか、ものすごい勢いで吹き飛ばされ、木に激突する。受け身をとっていたのだろう。立ち上がることはできるが、何が起こったのかわからない、という顔をしている。


「これはね、私の身に周りで起こる色んな”衝撃”を縛り付けてたのを少しだけ解放しただけだよ。これ位の衝撃を溜めるだけでもすごく時間はかかるけどね。」


彼女が集めた破片を片手で握ると、それは消えてなくなる。実際にはそれは溺結の呪体の中に格納されただけなのだが。


「そうだなぁ、黙って帰ってもらうためには…こうしようか。」


溺結は両手を天に掲げる。そして空に向かって強大な呪力を飛ばす。その呪力は白い線となり、東へと向かって行った。


「განურჩეველი ჯადოქრობა」


「何をしたのですか?」


リリアンが問う。彼女の眼にもはっきりと映るほどの巨大な呪力。嫌な予感がする。


「簡単な話。あなた達が私に危害を加えようとせずそのまま帰ってくれない場合、王都にいる人間を10人に一人の割合で無差別に呪い殺す。もちろんまっすぐ帰ってくれたらこの呪いは無効になるけどね。」


「ふざけるないでください。そんな巨大な呪いをこの一瞬で…」


「あら、あなたは私のことを勘違いしている。神級怨霊ってのは、こんなものだよ。それに色々と制約はつけてるし。」


制約は呪術において最も重要なことだ。それくらいは3人とも理解している。故に全員はそれを真実と解した。なぜなら嘘をつけばせっかく飛ばした呪いの効力が弱まるからだ。


「わかりました。ここは一時撤退しましょう。」


リリアンがユグドラシルを掲げる。その先端が緑色に輝き始める。


「【スペース・スワップ】」


「あ…」


3人の姿が消えたと同時にラーザの死体も姿を消す。


「確かに危害は加えてないけどね。」


溺結はそう呟いた。その顔は少し笑っているように見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その後、戦争はほどなくして終結した。戦争を起こした口実がなくなったからだ。講和会議では、両者少し気まずそうに互いが歩み寄ったという。

私事ですが、この章をもって一時休載ということにさせていただきます。いつになるかはわかりませんが、確実に再開しますので、気長に待っていただけると幸いです。次章は裁判編です。

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