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第百九十二話 最高戦力決戦 finale

静寂がその場を支配する。神聖杖・ユグドラシルの先端が再び緑色に輝き始める。大量の聖力が集まっているのだ。


「聖なる力よ、我に力を。」


リリアンがそう詠唱する。その瞬間、リリアンを中心とする泡が広がっていき、リリアンを中心とし、半径約100mまで広がった。俺と端までの距離は50mといったところか。


「いったん逃げるぞ。」


俺は骨喰にそう言い、後ろへ退避しようとする。この術式に巻き込まれれば確実に死ぬ。


「させると思っているのか?」


治癒を終わらせたアリオンが俺の退路を塞ぐように立ちはだかる。呪術師の人形も多い。


「下すは裁き。かの強大なる敵を討ち滅ぼせ。」


俺の胸の前に聖力が集まり、そして円盤が具現化する。円盤には中心から一本の針が伸びており、魔法時計のような見た目である。


「【ジャッジメント】」


円盤の針が動き始める。少しずつ、しかし目に見える速さだ。目算では一周まで約3分。


「脱出…はできそうにないな。」


俺は俺を取り囲んでいる人形に向かって突っ込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「アリアさん、あの魔法はいったい…」


先ほどアリアさんのお母さん、リリアン様の口から発せられた、聞いたことの無い詠唱。そして、【ジャッジメント】という名前。


「アテナさんがご存じないのも無理はない…というよりこの存在を知っているのは、この王国の中でもごく一握りの人間のみ。」


「神聖杖・ユグドラシルの権能魔法か。」


そう言ったのは、現在父親であるアリオン様がラーザ君と剣を交わしているウラノス君だ。


「流石、ウラノス君は知っているようですね。お父様から聞いたんですか?」


「まあな。ただ、それが一体どのようなものなのかまでは聞いていない。」


神聖杖・ユグドラシルの権能魔法…いったいどのようなものなのだろうか。


「【ジャッジメント】は、ユグドラシルを持った者に許される最強の魔法。発動後、対象がユグドラシルの近くに一定時間とどまり続けた場合、対象を抹殺するというものです。」


ユグドラシルの近くというのがあの泡のことで、一定時間を表すのがあの時計だろう。しかし不可解な点がある。


「対象を抹殺する、というのは一体どういうことなの?攻撃魔法が発動するということ?」


「そんな生温いものじゃありませんよ。まさしく抹殺、対象の概念ごと、殺してしまうのです。」


「対象を概念ごと…じゃあその魔法が、神聖杖・ユグドラシルの理に干渉する権能ってことなんだ。」


神の名を冠するものは世界の理に干渉する力を持つ、ということは同じく神器である怨霊斬骨喰さんから教えてもらった。


「じゃあさ、もうあいつは死んじまうのか?」


誰かがそう言った。それはこれまで考えてもみなかったことだ。彼が…ラーザ君が負けるなんてことは微塵も考えていないかった。


「嫌…嫌、です。私、もっとラーザさんとお話したいです!」


マリアがそう叫ぶ。ここにいるメンバーは必ずしも彼に反感がある人間だけでは無い。


「そうだよね、私だって、もっと彼に色々教えてほしい、彼の進む道を近くで見たい。」


思わず口にしてしまった、私の内心。しかしそれは紛れの無い本心だと、言うことができる。


「でも、もう無理じゃね?」


彼の胸の前に作られた時計はすでに4分の3を回りきっている。殺すためではなく、彼をここから出さないという目的のアリオンさんの剣は、彼でも攻略しかねている。その時だった。


「あれは……いったい何をしているの?」


彼は、その一切の動きを停止した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


‐無理だな、こりゃ。‐


アリオンを骨喰で払いのけたのち、迫りくる人形を斬り伏て思った。俺に残された時間は約50秒ほど。その間にこの範囲外の出るのは不可能だろう。


「かくなる上は…骨喰、あれをやるぞ。」


【あれをやるか。しかし成功率はほとんどないぞ。」


「いや、それでも現状より生存率は絶対に高い。」


俺はそう言って、呪力を操作する。周りから見れば何の意味のない呪力操作。形を成さない呪いに意味はないのだ。


「何をしている?」


アリオンにそう問われる。確かに、突然立ち止まってこれは訳が分からないだろう。


「まあね、俺には俺なりの考えがあるんだ。」


「では、その謀を実行させはしない。」


アリオンがこちらに突っ込んでくる。俺は防御も一切せず、その攻撃を受け続ける。血がこぼれ、そして四肢が斬り飛ばされる。流石に手がないのは困るので、最低限の再生のみをする。


「まあ伊達に長生きしてるわけじゃないんだ。これ位はできる。」


俺は掌に高密度の呪力の球を作り出す。俺が持っているほとんどの呪力を使い作り出したものだ。


「怨霊斬」


骨喰が紫色に発光し、刃で斬ることで球は骨喰に吸い込まれる。


「何をして…」


「知ってるか?この骨喰はな、喰った呪いを完全に保存する能力があるんだ。溺結を復活させた時も、溺結を完全に記録していたしな。」


俺は骨喰を力いっぱいに後ろへ投げる。ドレークが作り出した城を超え、自由都市の中へと吸い込まれる。


「じゃあな、死ぬ前にお前らと戦えて、楽しかったぜ。」


時計が今、完全に回り切った。時計は消え失せ、その場所に白い黒が混ざり合った光が出現する。


「やっぱ、呪いが混ざってるとこんなものか。」


これは俺の魂を表している。純粋な魔族や人間はこれは純白なのだがな。


「我々からしたら貴様は悪魔のような存在だ。」


俺の魂に亀裂が入る。その瞬間に俺の肉体には耐えがたい痛みが走る。神聖杖・ユグドラシルの権能魔法、【ジャッジメント】、その対象が魂あるものだった場合の効果。それは、


「魂の分解か…抗いようのない、理だな。」


俺は意識を手放した。

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