第百九十一話 最高戦力決戦 5th
「თოჯინა」
呪術師がそう言うとさらに森の奥から人形が現れた。
「どこにしまってたんだ…っていうより今作ったのか。」
よく見るとそれは土でできている。作りが甘いのか、形は歪だしポロポロと土が零れ落ちているのもわかる。
「サポートは任せてよ、アリオン。」
「生意気な奴だな…だが、それが助かる!」
アリオンはそう叫び、俺との距離を一気に詰める。俺は体から炎の触手をはやすような感覚で、呪力を放出する。今の俺の力量では、同時に5本を出すのが精いっぱいだ。
「っち、鬱陶しいな。」
俺は2本を防衛用にして、あと3本をアリオンの方へと使う。地面に触れると触れた箇所から黒く焦げていくのを見て、改めて炎恨の呪いの強さを実感する。
「アリオンはそのまま突っ込んで!僕が引き受ける。」
気づけばさらに人形の数が増えている。その人形たちがアリオンを俺の炎から守るように間に入る。一体では耐えきることのできない熱でも、複数体で耐えきって見せている。それを見たアリオンはこちらに真正面に向かってくる。
「まずいな…」
神聖剣・アスカロンは防御不可能の神剣だ。どのように硬いものでも布を斬るかのようにスパスパと斬り裂いてしまう。つまり呪力でいくら防御しても無駄、間合いにはいられないことが重要である。
「ფლეიმის პეპელა」
俺は呪いを発動する。威力重視の触手から手数重視の蝶だ。炎色の蝶が群れを成し、すぐ近くまで来ているアリオンに襲い掛かる。
「そんなものが足止めになると思っているのか。」
アリオンは小さくて数の多い蝶を次々にアスカロンで切り落としていく。その間にもほとんど減速していない。
‐流石、あいつの父親は違うなぁ‐
俺は目の前にまで迫ったアリオンを見ながらそんなくだらないことを考えていた。アスカロンは全てを斬ることができる。それは単に物質的なものに限らず、捉えることができれば、魂すらも斬ることが可能だ。
「この戦いの身を投げたのだ、生きて帰れると思うなよ。」
アスカロンが俺の体に襲い掛かる。まずは俺の利き手である左手を斬り飛ばし、その次は腹部を貫通した。返り血が飛ぶが、それすらも吹き飛ばされるくらいの速度で俺は切り刻まれていく。
「いくらやっても無駄だぜ。」
俺は切られた先から再生していく。斬られること自体は防御不能だが、斬られてからの再生事態を防ぐ能力はアスカロンにはない。
「そうか?今お前はこちらに反撃する余裕がないだろう。それに、再生にも無視できないほどの呪力を使うはずだ。」
「……」
痛いところを突いてくる。事実、俺は反撃に思考を回せるほどの余裕がない。少しでも気を緩めればその瞬間、魂をバッサリと行かれそうだ。
「呪力による体の再生は怨霊の特権だ。それを人間の体に適用する、なんて相当無理をしているだろう。そろそろ疲れて来たんじゃないか?」
アリオンは俺の首を飛ばす。普通であれば治癒魔法なんて無駄な即死攻撃であるが、俺は首から下を再生する。これにはさすがに驚いたようだが。攻撃の手は緩まない。
「さてさて…どうしたものか…」
俺がそう呟いた瞬間だった。強大な呪力の波が後方から伝わってきた。それは何の呪いも込められていない波だった。しかし俺にとっては大きな意味のあるものだ。
「ようやくかよ!来い、骨喰!」
そう俺が言ったのち、空から漆黒の刀が降ってくる。俺はそれを手で持ち、アスカロンを防ぐ。
「なっ…!?」
アリオンは驚いた声を出し、一度距離をとる。
【すまんな、遅くなった。】
「いや、ギリギリ間に合ってるわ。」
俺は体の節々に走る細かい傷を再生しながら言う。先ほどの呪力波の意味は、骨喰に蓄えていた呪力をすべて溺結に移したということだった。つまり俺が骨喰を呼んでもよい、という合図なのだ。
「怨霊斬骨喰か…アスカロンを防御できる神器。」
向こうも何となくこちらの事情を理解していそうだ。
「じゃあ、ここからが本番だな。」
俺はアリオンとの距離を詰める。途中で人形が何体か邪魔をしてきたが、すべて一撃で沈める。
「息子から聞いていたが、ここまでとはな。」
先ほどからは打って変わって、こちらが攻勢に出る。剣の腕ではこちらが少し上といったところか。
「აალებადი ხმალი」
俺は骨喰に呪力を送る。骨喰は紫色の炎を纏う。とりあえず大まかあ呪力の流れだけを送っておけば、あとはこいつが勝手に調節してくれる。
「呪力斬」
俺さらに隠していた切り札、呪力斬を使う。よく考えればこれはとてつもなく強い。数に限りがなく、不可視で、様々な方向から斬撃を飛ばすことができるのだ。もちろん、この骨喰が実際に届く距離限定ではあるが。
「くっ」
呪力の流れを感じ取ったのか、アリオンは呪力斬の位置にアスカロンを置くことで防いだ。しかし、一部を防ぎきれずにアリオンの右腕から血が噴き出る。
「アリオン!」
呪術師がそう叫ぶ。その後大量の人形がこちらに迫ってくる。しかもその一体一体にとてつもない呪力を込めている。
【ラーザ、自爆だ。】
人形は俺の近くに来ると、急に光り出す。流石にこの自爆攻撃をすべて食らうわけにはいかない。俺は炎を展開して、その爆風を防ぐ。炎を解くと、アリオンが少年の近くで先ほどの傷を治癒しているところだった。
「でもまあ、時間の問題だろ。」
俺がもう一度距離を詰めようとすると、上空で、何かが割れる音がした。その後何かの余波なのか、とてつもない爆風。
「はぁ、意外と早かったな。」
そこには先端が輝いている白銀の大杖を持った、リリアンの姿があり、その目の前で小さな炎が燃え尽きていた。