第百九十話 最高戦力決戦 4th
不死鳥の周りの炎が出現し、3人の方に向かって打ち出される。その炎は俺がいつも出している橙色ではなく、濃い紫である。それは呪いとしての質が高いことを示している。
「【ガーディアン・シールド-アンチカース】」
リリアンが呪いに特化した結界を張る。紫炎は強固な結界に阻まれ動きを止める。しかししばらくして、その結界にひびが入る。
「おいおい、それが破られるか。」
結界を破った炎をアリオンがアスカロンで斬る。アスカロンによって両断された炎は、3人の左右に分かれる。
「クワァァァ!」
不死鳥は3人の方に突撃してくる。俺はそれに合わせて地面を通らせて、下から攻撃をする。3人は違う方向にジャンプしそれを避ける。不死鳥はリリアンの方へ向かっている。
「この鳥は私が相手しましょう。2人はラーザを頼みます。【スペース・デバイド】」
リリアンは空間属性の術式で俺たちとの仕切りを作る。結界よりも大掛かりで聖力を大きく消費するが、その不可侵性は素晴らしい。何せ光や音すらも通さない。
「さてさて、リリアン相手にどれくらい持つかな…」
恐らくリリアンが相手だと、勝つことは不可能だろう。術者としての実力も、持っている装備の質も最強級だ。
「じゃあ、こっちも始めるとするか。」
俺はこちらに残る二人の最強に向き直った。
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(厄介だ。)
リリアンはこの仕切られた空間の中で、紫炎の巨鳥と向き合いながら考えていた。生半可な攻撃では意味がないだろう。しかしだからといって、大規模なものを展開するほどの隙を与えてくれそうにもない。
「それにして彼は、呪いに関しては初心者ではなかったのですか。」
ラーザが呪いの力を手にしたのはつい最近のはずだ。しかしその僅かな期間でここまでのものを仕上げてくるとは、恐ろしい才能だ。
「【プラズマ・ボール】」
紫電の弾を作り出し、不死鳥に向かって打つが、紫色の炎を通り抜けてしまう。
「実体のない見かけ上の炎ってことですか…」
確かに考えてみればあの大きさの炎があってこちら側まで熱気が伝わってきていない。呪力の塊がそこに浮かんでいるという印象だ。
「さてさて、どうしましょうか。」
通常の魔法は呪力に干渉する手段がほどんどない。結界魔法での抗呪属性のものがあるくらいだ。
クワァァァ!
不死鳥が鳴き、私の周りに炎が巻き始める。呪力の流れが速すぎて、目で追うことができなかった。
「【ハイドロ・シェル】」
濁流の殻を作り、それで身を守る。時間稼ぎをする間に手を考える必要がありそうだ。
「はぁ、これはあまり使いたくないんですがね。脳がつかれるんですよ。」
私はユグドラシルに聖力を込める。この杖出ないと発動できない、私の技術力とこの杖でなければ、人間領で発動できるものはいないだろうという超高等魔法。
「聖なる力よ、我に力を。加速するは我が心。【アウェア・アクセル】」
更に私はもう一つの魔法を発動する。
「聖なる力よ、我に力を。分かつは我が心【アウェア・デバイド】」
突然、私の視界がゆっくりになる。すべてを知覚することができる。不死鳥が使う呪力の流れですら十分に確認できる。
「これが…魔帝の世界。」
2000年前、四大魔族として人間領を脅かした4人の魔族。そのうちの一人が魔帝だ。その魔帝が使っていたとされる魔法。自らの思考速度を上昇させる魔法と、思考の数を増やす魔法。史実として記録され、多くの魔法研究者が解明に取り組んだが、それを成し遂げたものはいなかった。
「私を除いて…ですがね。」
これまでの視点とは違うものを試した結果、数年前にようやく完成させた魔法…いや、あえて言えば術式だ。しかし記録されている魔帝の出力には程遠い。
「しかし、今はそれで充分です。」
私を取り囲んでいた炎の渦は遂に私の水の殻を突破できずに消えてなくなる。しかし私の周りには私を中心とした炎の球が取り囲んでいる。
「【ガーディアン・シールド‐アンチカース】」
球の内側の表面から炎の棘が無数に伸びてくるしかも一気に来るのではなく、時間差で来るので煩わしい。自分の周りをすべて覆えばいいのだが、それをすると結界の強度が心配だ。
「なら、すべてに合わせればいい。」
私は最小限の数の強度重視の小さい結界を作り、それを動かすことで炎を防ぐ。呪力の分析、結界の移動などを加速した複数の思考が分担しているゆえにできる芸当だ。
「聖なる力よ、我に力を。生み出すは氷槍。【ケルビン・キャノン】」
別の思考の私は炎の球の外側に氷属性魔法を展開する。不死鳥の位置が視認できるわけではないが、呪力の察知ができないわけでもない。
「はあ、やはりだめですか。」
私が打った魔法は恐らく不死鳥を素通りしてそのまま空間の狭間で消滅する。このまま防戦一方ではいけない。
「これを使うしかないのですね。」
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リリアンと不死鳥が分割された空間に引きこもってしまったので、地上には俺とアリオン、そして呪術師団長とその人形しかいない。
「じゃあ、始めるか。」
俺は左手の拳に呪力を溜め始めた