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第百八十九話 最高戦力決戦 3rd

「じゃあ、僕もこれを出そうかな。」


呪術師の少年はそう言って目を閉じる。すると周囲に呪力でできた黒い球が出現する。


「はあ、それを使うのですか。一応この戦いはこの王都にいる皆さんも見ているのですよ。」


「知らないよ。リリアンもこの人が手加減ありで倒せるほど弱いとは思ってないでしょ。」


「そうだな。彼は現状、我々3人と同等かそれ以上の力を持っている。こちらも全力で行かねば負けるだろう。」


アリオンがそう言うと構えていたアスカロンに聖力が溜まり始める。リリアンはそれを見てはあ、吐息をつくとユグドラシルを構えなおす。その後、白銀の大杖は聖力を供給され輝き始める。


「やっぱりそれを使われるか。」


内心期待していただけに、少しがっかりした。あの力を使いこなせるようになっているということだろう。しかしあの黒い球の正体がいまだにつかめない。


「では、行くぞ!」


アリオンは地面を軽く蹴る。その一つの動作だけで20mほどあった俺との距離は一気に縮まる。【エンハンス】の強度を一段階上げたのだろう。


「【ハイドロ・プレス】」


リリアンが術式を展開する。俺の左右に超硬質量の水の壁が生成し、こちらへと迫ってくる。俺の選択肢をこの直線状に制限する動きだ。


「いいぜ。お前との一騎打ち、受けてやるよ。」


後ろへの後退も出来ないと判断した俺は、正面を向きアリオンに相対する。地面に呪力を流し、黄金に輝くアスカロンを睨む。


「წყევლა ჭია」


奥の方から呪言が聞こえてくる。恐らくあの黒い球関連の呪いだ。俺は地面に流した呪力から炎を出し、アリオンと俺を包む。この炎は呪い以外を防げない代わりに呪いに対して高い効果を表す。これである程度の呪いであれば無効化することができる。


「おらぁ!」


俺はそのまま足に呪力を込め、地面を抉る。アリオンがそれにあおられて体勢を崩すことを期待したがあまり意味はないようだ。


「ふん!」


アリオンはアスカロンを振るう。普通の戦いであれば体に呪力込めることでその剣を受け止めてその隙に反撃するのだが、アスカロンはその権能で神器以外での防御はできない。それゆえに俺は回避に専念する。ところどころで炎を出したり、拳を入れたりして反撃を試みるが、強力な結界が俺の攻撃を弾く。恐らく炎の外からリリアンが結界を出しているのだろう。炎で中の状況が分からない今、むやみに攻撃するより、防御に専念された方がこちらとしても厄介だ。そしてこの正確な防御は恐らく神聖杖・ユグドラシルのとある力が関係している。その時、俺はある違和感を覚えた。


「なんだ、この気配…まるで、何かが俺の炎をすり抜けて…」


俺が気づいた時にはもう遅かった。無数の黒い球が俺の炎を貫通して来たのだ。俺の炎を意に介さない様子ですり抜けてくる。それは避ける隙間もなく、それでいて現在こちらはそれを打ち落とすだけの意識も呪力も割けない。目の前で神器を相対しているからだ。


「ぐあっ」


俺はせめてもの抵抗でそれらをすべて左手で受け止める。この肉体は痛みをほとんど感じないのだが、呪いによる苦痛は例外的に感じる。それも、元怨霊だからだろうか。


俺は咄嗟に炎を解除し、大きく後ろに飛ぶ。この呪いがどのようなものかは知らないが、その対処に避ける呪力は多ければ多いほど良い。


ドクン


俺の心臓が大きく跳ねる。これは心臓に作用する呪いだろうか。しかし、その心臓には何の呪力も来ていない。それどころか敵の呪力は俺の右手から別の場所には行っていない。


「そうじゃない、これは…」


俺は右手から最小限を残し、血液で回している分を含めたすべての呪力を心臓に戻す。そして左手で右肩から下を強引に引きちぎる。その瞬間引きちぎった俺の右手の内部から蛆虫が湧いて出て来た。俺の右手を食いちぎって出て来たのだろう。


「気持ちわりぃな。」


俺はそれを空中に投げ、残した呪力でそれごと爆発させる。俺は右手を再生しながら地面に着地する。


「あまり趣味が良いとは言えないな。」


「う~ん、すごい判断能力だね!僕の呪いを初見で耐えた人間は君が初めてだよ。」


子供らしい笑い方をする少年。俺の言葉を聞いたのか聞いていないのか微妙なところだろう。


「相手を食いちぎる蛆虫を出す呪い…か。えげつないな。」


「そうでしょ、そうでしょ!この僕の呪い、すごいと思うよね。お兄さんもさ、何か見せてよ。僕が驚くような奴!」


本当に中身はまだ外見に相応の子供なのだろう。しかし、その実力は本物だ。恐らく呪いの腕前はトップクラス。殆ど者はあのまま、あの虫に喰い殺されていただろう。


「そうだな。じゃあ、俺のとっておきを見せてやるよ。」


そしてそんなことを言われたたら、見せるしかあるまい。俺が攻撃用として開発してきた呪いの現段階の到達点を。


「ფენიქსი」


俺は呪言を唱える。そして両手で鳥の形を作る。俺の全身から呪力が流れ出し、空に溜まっていく。


「な、なんですか…あれ…」


リリアンがそう呟く。それほどまでに巨大で、圧倒的な呪力量。これが神級怨霊の力だ。


「わあ!すごい!」


少年は無邪気に声を上げる。空の上には紫の炎が形を成していた。それは巨大な羽を携えた鳥である。それは完成した瞬間、羽を大きく広げ、空に向かって吠えた。いや、鳥なのだから鳴いたという表現が正しいか。


「完全独立型式神、不死鳥。俺の最高傑作だ。」

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