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第百八十四話 争いの始まり

エルフ領から帰ってきてしばらくの時が過ぎた。その間俺は呪いの練習をしながらシャラルについたままの幽林の簪について色々と思考を巡らているのだが、結論は出ないままだ。


「冒険者協会本部に来てくれだと?」


「はい。ドレーク様がお呼びです。」


今ほかの奴ら全員買いものに出かけていて家には俺一人がが残っていた。そこにドレーク専属秘書のエルヴィスが訪ねてきたのだ。少し前にエルフ領で見聞きしたことはすべて報告し終えているのですでに話すことはもうないのだがな。


「ハイハイ分かりましたよ。どうせ拒否権はないんだろ?」


「話が早くて助かります。」


そうして俺はエルヴィスと一緒に冒険者協会本部にまで顔を出すことになった。最近姿を見せていなかったからか数人の冒険者に絡まれながらもなんとか2階まで辿り着き、部屋に入るとそこにはドレークとそしてなぜかは知らないがデラニーの姿がある。自由都市ルフトの重要人物せいぞろいだ。


「おお、よく来た。時間が惜しいからの。さっそく本題にはいるぞ。まずはこれを見なさい。」


そう言われて差し出されたのは差出人の名前が書かれていない一通の手紙だった。俺は封を開け中身を確認する。そしてその内容に息をのんでしまう。


「ここに書かれていることは本気ですか?」


「まあそう思ってもらって差し支えないじゃろう。王族貴族どもはどうしてもラーザが欲しいらしいの。」


俺とシャラルの身柄を即刻王都に引き渡すこと。そうしなければ自由都市ルフトの自治権を無効とする、という旨の内容だった。


「ついに始まるということですね。」


俺たちが最初にこの街に入ってドレークと話した時のことを思い出す。つまりこれから始まるのは王族貴族と冒険者協会との戦争だ。そして俺はその大義名分、いわば引き金として使われる。


「デラニーたちはどう思う?」


といっても普通の冒険者までもがこの話に乗っかるとは到底思わない。しかしながら冒険者全員の協力がないと相手には勝てないというのも事実だ。


「まあ私からすれば突然のことでまだよくわかんないけどさ。ただ、ラーザは私たちの大切な仲間だろ?大丈夫だ。ここにいるやつらは権力になんて屈しねえし、仲間を守るためならその身を犠牲に戦うぜ。」


頼もしい言葉だ。冒険者の間で人望が厚いデラニーがそう言ってくれるのであればみんなもついてくるはずだ。


「ラーザよ、正直に聞こう。勝機はあると思うか?」


ドレークが俺に質問する。俺は少しの間考えを巡らせる。


「そうですね、兵の数や装備の質で言えば向こうが完勝しているでしょう。ただ、勝ち筋があるすればそれは、圧倒的な実践経験じゃないですか?王国騎士団や魔術師団は訓練はするでしょうが、命をかけた戦場という経験に乏しい。反して冒険者は毎日が戦場ですから。」


「そうじゃな。決して勝てない勝負ではない。王族には儂から断りの手紙を送ろう。あとは人間領中に散らばっとる冒険者を集める事じゃな。王族どもに気づかれんよう秘密裏に進めるぞ。良いな、エルヴィス。」


「はい」


そう言って二人は何やら書類などに目を通し始めた。俺とデラニーは部屋を出て、深呼吸をする。


「いやぁ、みんなには迷惑をかけるな。」


「何言ってんだよ。私たちは同じ冒険者だし、あんたは間違いなくこの街の中心的存在なんだ。」


そう言われると少しむず痒いが、それはそれで嬉しいものだ。


「ああ、じゃあ協力頼んだ。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「本当にそうするしかないの?」


家に帰り、買い物から帰って来たシャラルに今日の出来事を話した。溺結や骨喰、アルケニーも近くで聞いている。


「ああ、俺たちに選択権はない。シャラルもこれからは対人戦も見据えた訓練をしなくちゃな。あと、その簪もどうにかしないと。」


未だに使用方法が不明なこの簪も神器なのだから使えれば相当な戦力となる。しかし色々と知っているであろう骨喰は口を割らないし、簪自体うんともすんとも言わないのでどうすることもできないのだ。


「あと、溺結と骨喰に話があるんだ。」


「ん、どうしたの?」


【なんだ?】


俺は今頭の中で考えていたことを話す。両者ともに最初は驚いたような雰囲気だが、最終的には合意してくれた。


「じゃあそれに向けて準備しないとね。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その一週間後、自由都市ルフト中に拡声術式を使って警報が鳴り始めた。


『ルフトにいる全冒険者に通達。ルフトを中心とした半径10㎞の円周上に王族軍が到達。各員、事前に予告された配置につけ。繰り返す…』


その放送に冒険者たちはざわめきだす。しかし誰も狼狽えたりはしない。俺たちは今、西側の外壁の上に立っているが、すでにそこには大量の冒険者たちが待機している。ルフトにいた者、この一週間でルフトまで来た者、全員が一体となっている。ちなみにこの戦争に参加すれば冒険者協会から報奨金と冒険者ポイントの贈呈があるのでそれ目当ての奴も多い。


「じゃあ、頑張れよ。」


「うん、ラーザも無理しないで。」


【危なくなれば俺様を呼べ。】


溺結と骨喰は北側の外壁へと移動する。そちらの方向には冒険者は一人も集まっていない。


「シャラル、不安か?」


「うん、正直ね。でも、ラーザが近くにいれば安心かな。」


俺たちがそんな会話をしている時だ。遠くの方から色とりどりの術式が飛来してきた。

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