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第百八十一話 増えていく謎

もとの部屋に帰って来た俺は溺結の方へ行くと、聞きたかったことを聞く。


「お前、何か知ってるんじゃないか?」


その問いに溺結は俯いたまま答えようとしない。仕方がないのでさらに付け加える。


「初めてお前にあった日、なんか言ってたよな。まだ知るべき時じゃないって、自分で知ってほしいって。あれと関係あることなのか?」


「…うん。だからまだ私からは言えない。ラーザがその真実を受け入れる準備ができるまで、そしてそれを自分の目で確認するまでは。」


前回とほとんど同じ答えだ。


「そういうことならまあ深追いはしない。今はそれよりもするべきことがある。」


「わかってるよ。その子の解放だろう。契約を反故するつもりはない。」


オベイロンがそう言うとシャラルを覆っていた泡が消え去り、シャラルが落下する。それを腕で受け止めてあげるとシャラルはそっと目を覚ます。


「あれ…ラーザ?ここ、どこ?」


まだ完全に目覚めていないのだろう。まずは自分の足で立たせる。シャラルは目を擦りながらも周りを見渡す。


「じゃあ、状況を簡単に説明するとだな…」


俺はこれまでの顛末をところどころ省略しながらシャラルに伝える。シャラルは途中凄く驚いた表情を見せるが、最後まで冷静に聞いてくれた。


「そう、そういうことだったんだ。その、精霊姫ティターニアってどんな能力を持っているの?」


シャラルの魂に眠るティターニアの能力、確かにそこまでは聞いていなかった。


「彼女の能力は無尽蔵の霊力だよ。」


オベイロンが答える。


「その体からは霊力が無限に湧き出すんだ。まさしく神霊の能力だろう。」


俺はその説明を聞いて気が付く。なぜこいつがこんなにも焦っていたのか。現と霊層、呪層の関係や霊層の地形などの点が線でつながる。


「まさか…霊層がこんなにも豊かなのはお前の、いやお前たちの恩恵なのか?」


それを聞いたみんなはまだ理解できてないようだ。しかしすぐに溺結が悟ったように声を上げる。


「そうか、私が最初に気づくべきだった。この世界の資源のほとんどは現に存在している。だから呪層は何もないただの荒野みたいなもの。でも、同じ条件の霊層がこんなに豊かなのはティターニアがいたから、というよりティターニアとオベイロンがいたからか。」


「えっと、我々にもわかるように説明してもらいのですが…」


ルイスがそう言うので俺はルイス達にかいつまんで説明する。


「この世界の3つの層のうち、一番表層にあるのは現だろ?そしたらいわゆる資源と呼ばれるものは現に集まるんだ。だから呪層や霊層は本来とても貧しいものになる。でも、霊層は違う。層を変えるほどの力が働いているんだ。で、それをしているのがオベイロンなんだろう。オベイロンは霊力をイメージして使うことができる。いわば霊力さえあれば何でもできる精霊だ。そしてその霊力問題はそれを無限に生み出せる精霊、つまりティターニアがいれば解決する。」


「その通りだ。よくわかったね。ティターニアと僕は協力して霊層を維持してたんだよ。でも彼女が消えてからその維持が難しくなってね。予備の霊力を使ってるけどそれも厳しい。君たちもこの砂漠を見ただろう。もともとは緑豊かな草原だったんだよ。」


つまり霊力が足りなくなってきたから局所的に維持を諦めたのだろう。しかしこのままの状況であればこの層は完全に砂漠化し、いづれ呪層のようになってしまうのではないか。


「そ、そんなのダメだよ!何とかできないの?」


シャラルがこちらを見上げてくる。俺は考えるが、いい案は思い浮かばない。ティターニアをシャラルの魂から出さないことには始まらないが先ほどの話からするとそれはシャラルの死を意味するのだろう。皆もそのことに気が付いているのか口を開かない。


「シャー」


アルケニーが声を上げる。声の方を見てみるとアルケニーは骨喰の上に乗っかって足で骨喰を叩いている。


「ん、どうした。骨喰がどう、し…」


【何か良い考えでも浮かんだか?ラーザ。】


俺は考えをまとめる。しかしそれができるかどうかはまず骨喰の能力にかかっている。


「骨喰、お前は本当に怨霊しか喰えないのか?」


【ふむ、面白い質問だな。怨霊斬のことを言っているのか。その質問に答えるとすれば、答えは半分は正しい。】


「もう半分は?」


【怨霊であればその体を斬るだけで喰うことができる。しかし怨霊でなくともその魂を正確に怨霊斬で斬れば、喰うことができる。】


その言葉を聞き、俺は今考えていることが実行可能なことを確信した。


「じゃあ、シャラルの魂の、ティターニアの部分だけを喰うことはできるか?」


俺のその言葉に周りがどよめく。恐らくこれから俺がしようとしていることを察したのだろう。


「本当にするのかい?それは、なんというか、非常に苦痛を伴うことのはずだ。」


それは俺も考えていたことだ。しかしそれ以外に方法はない。俺はシャラルにできるかと聞こうとすると、


「私、やるよ。今までいろんな人に迷惑かけて来たんだから。これくらいのことはできないと。」


なんだ、俺が質問する前から覚悟ができているではないか。じゃあ後は準備だ。何かあってはいけないので万全を期して事に臨む。


「アリア、【センス・カット】をシャラルに行使できるか?なるべく強いのだ。アテナはシャラルが死なないように常に治癒魔法を頼む。ほかのみんなもそうしてくれると助かるんだが。」


それを聞いたアレス・アカデミアのみんなは顔を見合わせて頷く。人間領で最高の学園の生徒たちはなんとも頼もしいことだろうか。


「ですが、【センス・カット】は体の感覚は取り除けても魂が直接感じる痛みは感じますよ。それでもいいですか?」


「ああ、なるべくシャラルに痛みは感じてほしくない。それに、シャラルなら魂の痛みにだって耐えられる。」


「うん!任せて!」


俺は骨喰を抜く。するとアルケニーが俺の肩に乗ってきた。


「シャー」


今ここにいる中で一番古くからの友人はやはり頼もしく感じる。


「お前のおかげでいい案が思いつけた。ありがとうな。」


「シャー!!」


アルケニーは前足を高々と点に突き立てた。

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